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◆傍観者達は何を見るか⑤◆
「えっと__ユキ、ユキ……の降る場所かぁ……うーん、あるにはあるけれど……」
「ミラージュでは自然とユキが降る場所は存在しない。だが、そういえば向こう側に魅力された変わり者共が何人か集まってダイイチチュウからありったけのユキをかき集めて小さな集落を作り上げたとは聞いた事があるな。魔物からの襲撃を受けて集落は壊滅状態。その後、ずっと閉鎖され立ち入り禁止中との事だが、一応それも調べて見るか?」
サンが言う向こう側とはダイイチチュウのことだろう、と頭の中で思いながら誠は、彼の問いかけに「ああ」と答えるべきか困った。
このままで埒が開かないような気がしたからだ。
ふと、《パソコンのような物体》の画面から顔を離して両手で目元をつまみつつやんわりとマッサージをしてから再び目線を仲間達の元へと戻した時、興味津々な様子でいつの間にか此方に近付いていたシリカの姿が目に入ってきた。
「____マコトよ、ドラゴンはどこにいるの」
「ドラゴンだって?ドラゴンなんて、ここにはいないぞ?」
「そんなわけがない……シリカは王宮でホワリンと寝ていた。そしたら急に、王宮中が白い光に包まれて、気がついたら使用人も、シンも……シンが連れてきたサカモトとかいうニンゲンも皆が石みたいに固くなってた。そしたら、壁についてる蝋燭の炎の中からお兄さまが現れてゲームをしないかって聞いてきた」
シリカのいう《お兄さま》とは、チカのことだ__と察知した誠は疲れのせいでショボショボする目をカッと見開きつつ真剣な様子で目の前にいる少年を見据えた。
「チカ……だって?それじゃあ__チカが優太をさらったり、王宮の者達を――あんな風にしたってことか。それて、チカは……どんなゲームをしないかって誘ってきたんだ?」
「ドラゴン__白いドラゴンが出てくるゲームをしないかって……お兄さまは、そんな風に言っていた。シリカも混ぜてあける、と言って指を鳴らした途端に――白い光がさしてきて……気付いたらここにいたのだ」
真剣な様子でシリカの肩を掴みつつ熱心に聞いてくる誠の剣幕を見て驚いたのか、僅かに体をビクッと震わせてから答える。
すると、誠はポンッとシリカの頭に手を伸せるの二、三度__なるべく優しい手付きで撫でる。
シリカのある言葉のおかげで、かつて雪菜という妹と交わした会話を思い出せたからだ。
【白いドラゴン】____。
【ゲーム】____。
共に、誠が妹と遊んだ記憶として頭の片隅に残っているキーワードだ。ダイイチキュウで過ごしてた冬のある日、【白いドラゴン】がボスとして出てくる【ゲーム】を買ったと雪菜が嬉しそうに話していた《過去の記憶》を思い出した誠は再び目線を《パソコンのような物体》の黒い画面へと戻した。暫く時間が経っていたせいなのか、ザッ__ザザッとノイズが走って画面が若干乱れてしまっている。
( Night of Dragon ストーリー ………… 雪菜が手に入れて涙が出るほど喜んでいたゲームの名前だ……)
【 Night of Dragon ストーリー】
カチャカチャと《パソコンのような物体》の画面へとキーワードを入力する。最後の望みといっても過言ではないため、間違えないように慎重に入力し終えた誠は半端ない緊張からか深く息を吸って吐いた。
そして____、
【ようこそ 、、 愉快 な 仲間達 と 雪山 の 世界へ ● ● ● に 選ばれし 冒険者達よ 、、 いざ 冒険 の 旅 に 出る が よい …… …… 】
カーソルが動いていないにも関わらず、画面いっぱいに文字が泳いだかと思うと__辺り一面が眩い白い光に包まれて、誠はもちろんのことすぐ側にいるサンやミスト――それに引田やシリカ達までもが強烈な光の刺激から逃れるように咄嗟に目を瞑ってしまう。
白い光は徐々に薄れていったものの、それとほぼ同時に凍えるような寒さを感じた誠達はこの異様な状況でも平然としているドクターCとマ・アを薄目で見て怪訝そうにしつつ《パソコンのような物体》の画面の中から吹き荒れる吹雪に巻き込まれつつ強い力で吸い込まれていってしまうのだった。
◆ ◆ ◆
「ドクターC……カレら、大丈夫であるあるか?」
「ああ、大丈夫__彼らなら、きっと救ってくれるやきな。魂のない空っぽの我々も、金野も__それに、彼女達も救ってくれるだろう……さあ、マ・アはそろそろ眠りなさい。おやすみ__」
マ・ア以外に誰もいなくなった二人きりの研究室で、ドクターCはポツリと呟く。そして、魂がない故に寒さなど微塵も感じなかったものの__ふとニンゲン時代の気分を再び味わってみるのも悪くない、と思いつつダイイチキュウにいた頃に大切だと思っていた人間から贈られた灰色のセーターを身につけた。
心理カウンセリングとして働いていた時に出会ったその人物は、こう言いながら笑顔でセーターを渡したのだ。
『中田 忠太って……なんか、ネズミみたい。これ、ネズミみたいな先生にあげる……これからは、ドクターCって呼んでもいい?』
そんなダイイチキュウでの思い出に浸りながら、再び寝つくマ・アの頭をドクターCは優しい手付きで撫でるのだった。
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