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◆迷える者達は白銀世界で何を見るのか③◆
「引田、危ない……っ____!!」
「く……っ……こいつらは、何でいきなり我々に危害を加えようとしてきたんだ!?」
そう言いながら、《まるで金平糖のように何色にも色をかえる謎の物体》が唐突に自らの凸凹した体を転がしてシリカを救うために駆けていく引田目掛けて凄まじいスピードで突進していく。
咄嗟にミストやサンが自らの武器を構えつつ、魔法を唱えたり弓を放ったりと攻撃するものの、まるで手応えがない。
その時、ピコンッ……と小さな音がした。
そうかと思うと《金平糖のように凸凹した謎の物体》と《大福のように楕円形をして柔らかそうな謎の物体》の右上脇に吹き出しが現れて空中に浮かぶ。ちょうど、その二体の右上に漫画のような吹き出しと文字が現れた状態だ。
《ワガシイチ の 突進だよ !!よかった ね ハズレ た よ 》
《ワガシイチ に ダメージ は ない よ》
まるで、子供が遊んでいる時のように愉快げな口調の吹き出しが空中にポッカリと浮かんでくる。
ミストがいくら魔法を放ってみても、サンが何度も弓矢を放ってみても__当たるには当たるものの、繰り返し《ダメージはない》と吹き出しに浮かんでくる。
そのせいて、油断していた__。
金平糖のような《ワガシイチ》の攻撃にばかり気を取られ、《楕円形の大福のような物体》のことを忘れていたのだ。
ピコンッ…………
《ワガシニ の 攻撃 だよ !! やった ね くりてぃかる ひっと だよ 》
またしても、空中に吹き出しが出てきて此方の攻撃が効かないことで慌てている誠達の精神を追い詰めていく。
「引田、おい……大丈夫か!?」
「こいつ、いつの間に……こんなに大きくなったの!?ヒキタがこいつの体内に閉じ込められちゃうなんて、しかもこっちの攻撃まで効かないなんて……いったい、どうすれば……」
と、ミストが顔面蒼白になった時だった。
どこか、此処から離れた方角から大地を揺るがす程の凄まじい咆哮が聞こえてきた。とはいえ、誠はこの咆哮をダイイチキュウで聞いた覚えがなかった。
ダイイチキュウにも咆哮を放つ動物は存在していたが、それとは何かが違う気がしたのはライオンや虎などのものよりも遥かに声量が大きく__周囲にいる存在を圧倒的に威圧しているからだ。
謎の咆哮を聞いた瞬間、思わず__誠もミストも、そしてサンも顔を歪めて耳を塞ぐ。そして、それは一行に敵意を剥き出しにしてきた二体も同じだったらしく、《金平糖のようなワガシイチ》と《大福のようなワガシニ》は共に攻撃を止めて一旦制止した。それだけでなく、よほどその謎の咆哮に対して驚いたせいか《ワガシニ》に至っては咄嗟に中に閉じ込めていた引田をペッと吐き出したのだ。
「うげ~……ネチョネチョして気持ち悪いんだけど__って、そんなこと言ってる場合じゃない!!誠、ボーッとしてる場合じゃないだろ?あの我が儘王子を助けるよ!!」
「あ、ああ__そうだな……ってお前は大丈夫なのか?」
「ぼくは、大丈夫だってば。白いネチョネチョした粘液に変なことされかけたけど未遂だし、命にまでは関わってないから。でも、あの我が儘な王子様はすぐに助けなきゃ命に関わるでしょ__ほら、ごちゃごちゃ言ってないで……早く!!」
そのやり取りをした後、誠達は降り積もる雪の下に隠れてる氷が割れたせいで水中に溺れるシリカを助けることに成功したのだ。
そしてシリカを救った誠達が次にした行動は、此方の攻撃がいっさい効かない《ワガシイチ》と《ワガシニ》から逃れるべく脱兎の如く駆け出すことだった。
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