561 / 713
◆迷える者達は白銀世界で何を見るのか④◆
◆ ◆ ◆
あれから、脱兎の如く逃げ出した誠達は再び雪が吹き荒れる雪原を歩いていた。途中で小さめでそこまで深くない洞窟を見つけたため、一度休憩をとり__尚且つ、シリカの濡れてしまった服をミストの風魔法で乾かした。
そのことから察するに、どうやらこの白銀世界では全ての《魔法》の効果がないというわけじゃないらしい。おそらく、敵意を向けてくる存在(先程のワガシイチやワガシニのようなものたち)に対して攻撃を加えたり危害を加えようとすることはできないものの、自らが魔法を使ったりするのには支障がないようだ。
しかし、それでもこの白銀世界から優太という仲間を探し出して、無事脱出するという目的を達成するのに依然としてピンチなのには変わりない。
ミストが耐寒効果のある魔法をかけてくれたとはいえ長時間、雪が吹き荒れる道中を歩いていくのは肉体的にも精神的にもきつい。そして、そのキツさはかつて、ミラージュの第二王子として甘やかされて育ってきて尚且つメンバーの中で一番年下で体の小さなシリカにずっしりとのし掛かってくる。
とはいえ、サンからおぶってもらっているシリカの場合は肉体的にキツいというよりも__むしろ精神的な疲労が表情にくっきりと出ているのだ。目をショボショボとさせながら閉じたり開いたりを規則的なリズムで繰り返し、僅かに涙ぐんでいるシリカは、明らかに眠気を催しているのが隣にいる誠にも引田にもミストにも分かった。
「シリカ様、体の具合は大丈夫ですか?」
「う、うん。でも、眠い。サン__シリカをおんぶしてくれて、その……あ、ありがとう……」
「我が儘王子さま、いくら眠いからって__眠っちゃダメだよ?こんな場所で寝たら……凍死しちゃう……」
と、そんなやり取りをしつつも一行は明確な道しるべもないまま当てずっぽうな方角へ歩き続ける。今歩いている道が確かなどとは思えないが、とにかく前に進むしか方法がない。
すると、ふいに誠達の頭上をフワリフワリと浮かびながら着いてきたイビルアイ(ホワリン)が動きをピタリと止めて辺りを見渡した。そして、怪訝そうに見上げる誠達に顔も動かさず目線さえ合わせずに無言のまま何処かへと飛んで行く。
まるで、見えない何かに吸い寄せられているかのようだ。
異変は、それだけではなかった____。
「んっ……声、だれかの___声が聞こえる……サン、あっちに行って……」
「で、ですが__シリカ様……このような異様な場所で安易に危険に飛び込むような行動をするのは……危険なのでは?」
「だって……ホワリンが、このままいなくなるのは嫌だよ。それに、だれかが助けを求めてるもん……」
と、シリカから涙声で言われてしまい__ここにきて今まで彼の従者として甲斐甲斐しく働いていたシンの苦労が分かったような気がした。突き放してやりたいと思う反面、どうしても逆らうことが出来ない。シリカがミラージュの第二王子だからだとか、シンと同じように彼ら王族に歯向かう立場だということを抜きにしても、心の底では呆れ果てながらも従わざるを得ないようなモヤモヤとした気持ちを抱いたサンは軽くため息をついてから背中にいる【ミラージュの小さな時期支配者】に向かって渋々と承諾する。
「そうまでおっしゃられるのならば、致し方ありません。ただし、シリカ様や我々に危機が及ぶと私が判断した場合、すぐにその場を離れますので、それだけはご勘弁を。それで、我々はどちらに向かって歩けばよいのですか?」
「サン、ありがとう……えっと、あっち__あっちから……だれかの声が聞こえてくる……それに__ホワリンも…………」
ダイイチキュウに存在したタクシーの運転手のように、サンはシリカが弱々しく震える手で示す道しるべを辿っていく。
そして、とうとうシリカの言う【だれかの声が聞こえてくる】という謎の場所の前に到着した時には既にシリカは夢の世界へと誘われてしまっていた。
そのため、誠と引田はダイイチキュウで目にしたことがある《カマクラ》のように全体が雪で覆われた大きめな洞窟の中へと一行達は急いで足を踏み入れるのだった。
ともだちにシェアしよう!