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◆迷える者達は白銀世界で何を見るのか⑤◆

◆ ◆ ◆ 「シリカ様、あなた様を疑う訳ではありませんが__本当にこの場所から何者かの声が聞こえるのですか?」 「うん。確かに、シリカには聞こえるよ。《助けて__ここから出して》……って色んな人の声が混ざりあって聞こえてくる」 サンとシリカのやり取りを聞いて、誠達は揃いも揃って首を傾げてしまう。シリカを除く一行には、《救いを求めてくるだれかの声》など幾ら耳を澄ませてみても聞こえなかったからだ。 「それにしてもさ、ここって外の風景とは違って何か異質だと思わない?あれだけ寒くて凍え死にしそうだったのが嘘みたいにポカポカしてるし……何かおかしいよ。ミストやサン達はともかくとしても、誠はぼくの言ってること、分かるよね?」 「ああ、確かに___引田、お前の言うとおりだ」 そう言ってから、誠は改めて《カマクラ》のような洞窟の中の様子を見渡した。引田が外の白銀世界と比べて異質だと言うのも無理はない。 今にも寝てしまいそうなほどに心地よい暖かさ__。中央には雪の白さで覆われている大樹が立ち、その存在感をあらわにしている。また、そよ風が吹く度に、はらはらと真っ白な雪が地面へと舞いながら落ちていく。 その大樹の周りを透明な蝶々がふわり、ふわりと軽やかに飛び交っている。 そう、これはまるで____。 「ダイイチキュウの……春みたいだ」 「ハル?ハルって……ダイイチキュウでいう__シキのうちのひとつの呼び名だったっけ……ミラージュの王様がもっと元気だった頃はダイイチキュウはハルがいちばんキレイと言っていたよ?確か、サクラのキがキレイとかなんとか……」 ぽつり、と呟いた誠の言葉にミストが反応し興味津々そうに此方を見つめながら尋ねてきたためコクリと頷く。 「じゃあ、この場所がダイイチキュウのハルを表してるとして____あれは、サクラとかいうキのこと?」 「えっ…………!?」 ミストから言われて、ハッとした。 確かに、あの大樹はダイイチキュウでいうところの桜の木によく似ている。それに気付かされたせいか、あることを確かめるために誠は大樹へと近づいた。そして、そよ風によって舞い落ちる雪の塊を手で救い止めて眺めてみる。 それが、桜の花びらの形とよく似ているために今いるこの場所はダイイチキュウの《春》を模して作られた空間だと確信した。 (桜によく似ている大樹__それに、第二王子の言う救いを求める声……) ふっ……と誠はある疑問が頭を過り桜によく似ている大樹からシリカへと目線を向き直した。よほど切羽つまった顔をしていたせいか誠がシリカを見つめ直した途端に彼はかつて偉ぶってっていた態度とはうってかわって少し緊張した表情を浮かべていた。 「シリカ……おま――いや、あなたには……もしかしたらだが、生者の声よりも死人の声の方が鮮明に聞こえたりする時はないか?」 「き、聞こえる。むしろ、シリカには死にかけた人の声や死んだ人の声とか魂が宿っていない物の声の方が……はっきりと聞こえる。これは、生まれつき。だから、シリカは昔から周りの者達に白い目で見られてた」 己の問い掛けに対してのシリカの答えともいえる言葉を聞いた時、誠の頭の中にひとつのアイディアが宿った。もしかしたら、この《カマクラ》のような洞窟にある大樹が優太と青木というクラスメイトかつ仲間を救う手がかりになるかもしれない、と__今度はミストへと目線を向ける。 「ミスト……あの大樹に向かって、風魔法を放ってくれないか。もちろん、お前の魔力が尽きない程度の魔力で構わない」 「えっ……それはいいけど、でも……どうして?」 「それについては、もしこの方法がうまくいった後で説明する。今は、とにかく優太と青木を救うための手がかりがほしい。そのために……」 と、誠が全てを言い終える前にミストはコクッと頷くと杖を持ち素早く詠唱をして風の精霊を召還した。人間の中指くらいの大きさで、全身が緑色という、まるで宇宙人のような見た目の風の精霊はダイイチキュウでいうところのトンボのように薄い透明の羽根をパタパタとさせつつ軽やかに舞っていたが、召還主であるミストから命令を受けるとクスクスと笑みをこぼしつつ愉快げな様子で大樹へと近づいていく。 そして、ふうっ……と蝋燭の火を消すかの如く勢いよく精霊が大樹の上部に向かって息を吐いた。 その途端、大樹の上部を覆っていた真っ白な雪が__まるで風に吹かれて散る桜の花びらのように一斉に地面へとハラハラと舞い落ちていく。 そして、降り積もった大樹の雪が真下へと舞い落ちていく度に今までは単なる岩場でしかなかった地面に変化が訪れる。地面がゴゴゴゴと辺りに響き渡るほどの地鳴りでひび割れていくと共に大樹の真下から凄まじい数の《ニンゲンのシタイ》が現れた。 それは、やがて大樹の周りを囲うようにして折り重なった山となっていく。 「な、なんだこれは……っ___!?」 これは、誠の声だ____。 まさか、こんな事態になるのは思ってもみなかった誠はおそるおそるゆっくりと地鳴りの収まった大樹の方へと歩いていく。なかなか、足がうまく動いてくれなかったものの間近まで来たおかげで《ニンゲンのシタイ》について幾つかの事実が分かった。 互いに折り重なった状態となり山となっている《ニンゲンのシタイ》はいずれも、【冒険者のような格好をしている男性(同じ顔)のもの】と【占い師のような格好をしている女性(同じ顔)のもの】しかないこと____。 【冒険者のような格好をしている男性(同じ顔)のもの】のニンゲンのシタイが折り重なった状態となっているにも関わらず、全部の右手が伸ばしてあり、尚且つ――その全ての右手の人差し指が今いる場所から東の方向を差し示していること____。 大樹の真下に今まではなかった筈の宝箱が置いてあること。その宝箱にしっかりと鍵がかけられていて普通のやり方では開けられないこと____。 それらを、己の目で確かめた誠は真っ直ぐと宝箱の方へ歩いていく。 そして、こう唱えるのだ____。 【アズキ】、【キナコ】、【マッチャ】と______。 カチッ……と音がしてゆっくりと開いた宝箱の中には地図が入っていた。 【宿屋の地図】と書かれて、ある場所に赤丸がつけられたその地図を誠を含めた一行達はマジマジと見つめるのだった。 【アズキ】、【キナコ】、【マッチャ】という名前には心当たりがある。 誠の妹の雪菜が大好きだったゲーム――【 Night of Dragon ストーリー】で彼女がつけたキャラクター達の名前だ。 (その事も気になる……しかし、今は何よりも優太と青木の元に行かなくては___) 何となく胸騒ぎを感じた誠はギュッと宝箱の中から取り出した地図を握り締め、仲間を一瞥しこう言うのだ。 「すぐに__このマークがついてる宿屋へと向かおう。おそらく、俺らがいる場所はこの【サクサク・ルハラ洞窟】だ……つまり、あの彼らが示すように__ひたすら東に向かって歩けたば辿り着く。それと__あまり考えたくはないが……戦闘の準備をしておけ」 誠の口から放たれた《戦闘》という言葉に一気にピリピリとしたムードを漂わせつつ、ミスト達はほぼ同時に頷くのだった。 ◆ ◆ ◆

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