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再会は宿屋にて②

【アズキ】だけではない____。 宿屋の扉に手をかけた【アズキ】の後に続く【キナコ】、【マッチャ】も――かつて、記憶の中で誠と雪菜が作り上げたキャラクターに瓜二つだ。 【アズキ …… …… ドウカ 、シタ??】 【いいや なんでも ない …… ……】 引田に引き寄せられて、口元を抑えられながら共に隠れている誠の方へ顔を向けたような気がした。そして、尚且つ――何の感情も込められていない硝子玉のような青い西洋人形のように青く美しい目とばっちり合ったような気がしたのだが、【アズキ】は【キナコ】の問いかけに対して素っ気なく答えた後にそのまま彼らを引き連れて宿屋の中に入ってしまった。 「こ、これから……どうする?引田、お前がどう思うかは知らないが……俺はなんとなく嫌な予感がするんだ。これが、胸騒ぎというのか――とにかく、このままの状態で宿屋の中に入ってしまうのは何となく危険な気がするんだ。優太と青木を除くあの三人組は……俺らにとって危険な存在だ」 「うーん……確かに、それはよく分からないし、あの三人組についても何とも言いようがないんだけどさ……ぽくも、なにかが怪しいと思うんだよね。この宿屋自体が――何か、変なんだ。ほら、見て……あそこに冒険者みたいな格好した奴らがいるだろ。奴らはみんな同じ格好をしてるんだ。誰ひとりとして同じ性別、同じ装備に、同じ髪型__同じ目の色……唯一、違っているのはあのカウンターの受付嬢だけ。それって何か不気味じゃない?」 引田の言うとおり、窓の隙間から盗み見る冒険者の格好をした男達は全てが同じだった。何人かいるものの、皆が皆――示し合わせたかのように同じ装備を身につけ、髪型まで揃っている光景は確かに異様だとしか思えない。 しかし、今はそれを知った所で何の意味もない。今、誠達が為すべきことは【如何にしてアズキ達三人に怪しまれないように宿屋の中へ入ればいいのか?】という疑問を解決することなのだ。 「そ、それなら――シリカ……があの宿屋の中に入ればいい。王族は変身するのが得意……それに、こんなことでしか、さんざん今までめーわくをかけてきたのを……あやまることができないから……」 ふと、少し離れた場所にいたシリカが此方まで近付いてきて消え入りそうなか細い声でひそひそと囁いてきた。 「そ、それは……あの宿屋の中いる冒険者と同じ格好に化けたお前が――囮となり、優太と青木を連れ出すということか?いや、いくら何でも__それは危険過ぎる。いくら、王族が変身魔法が得意で……その、迷惑をかけてきたとはいえ――お前ひとりでは……っ……」 と、誠が予想もしなかった提案をするシリカに対して困惑と驚愕が入り雑じった複雑な表情を浮かべつつ必死で制止していた時だった。 「マコトよ、シリカ様の望み通りにしてやれ……今まで、ワガママばかりだったシリカ様が――初めて、周りのために何かをしたい……と言っているんだ」 「それは、そうだろうな。でも、やっぱり年端もいかないシリカを危険な目に合わせるのは気が引ける。だいいち、ミラージュの未来を担う王子の一人であるシリカを危険な目に合わせる訳にはいかないだろう?サン、ミスト__王族に仕えていたお前達は、そうは思わないのか?」 ミラージュという国の未来がかかっていることに対してプレッシャーを覚えた誠は、普段になく焦った様子でサンとミストへと声をひそめつつ尋ねるのだった。

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