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【ユйёウ*タ】と【アёオЁеキ】があらわれた④

引田の説得もむなしく、誠は険しい表情を浮かべつつも無言で階段の前に歩いて行く。そして、口元では笑いながらも決して目は笑っておらずジッと誠達の動向を窺っている素振りを明らかにしている【アズキ】へと右手を差し伸ばす。 それはすなわち、誠が降伏し――今の許し難い【アズキ達】の申し出を受け入れ、尚且つ__下手したら洗脳に近いともいえるような精神攻撃を受けた仲間(優太と青木)共々を救わずに、何もかも全てを諦めてしまったかのように引田達五人の目には映ったのだった。 【ここ に 来た 、 と いう こと は …… ……俺ら の 仲間 に なって くれる ― ― と いう こと かい ? ? つまり 、 俺ら の 後継者 …… ……いいや 、 キャラクター と いうべき かな __ 。 】 「ごちゃごちゃ喧しいのは……いいから__さっさと、俺と握手してくれよ……俺らは、これから仲間になるんだろ?グループの代表同士が最初に握手するのは……ダイイチキュウでも重んじているからな」 まるで、最初から【アズキ達】と仲間だったかの如く和気あいあいと話している誠を見て、引田を含めて他の四人の仲間達も言葉を失ってしまう。しかし、その中で__言葉を失いながらもミストだけは絶望的な表情を浮かべるのではなく鋭い目付きで誠の目を真っ直ぐに見据えていた。 ミストだけは、誠のある異変に気付けたのだ。 それは、ミストがいる位置が良かったともいえるし――はたまた、誠を心から信用して引田達のように【負の感情】に振り回されなかったから気付いたともいえる。 けれど、ミストは何も言わず黙っていた。心の底から怒りが湧き出てくると無意識のうちに目が黒く染まるというエルフ特有の状態異常が現れたにも関わらず――ただ、じっと事の顛末を見守っている。 とうとう、あと少しで誠と【アズキ】が握手を交わす__といった時、ついに彼は行動に現した。まるで、ダイイチキュウで人間が猫を被ってるかのように誠はじっとその時を待っていたのだ。 【アズキ】が自ら、誠の手をとろうとしてきた時をひたすら待ち続けていたのだ。心には凄まじい怒りを抱えつつ、尚且つ__大切な仲間を裏切るかのような素振りをしながら、この時を待っていた。 「……っ____!!」 【な …… っ ……なん の つもり だ…… ! ?】 差し伸ばした右手を手のひらに隠しておいた最小の折り畳み式ナイフを持ちなおし、慣れた手つきで素早く刃を出した誠は戦闘に慣れて尚且つ敵という【アズキ】でさえ躊躇した僅かな隙に彼の手首にぐさりとその銀色の刃を突き刺したのだ。 もちろん、最小限のサイズであるために即座に【アズキ】を始末しようという都合のいい考えはなかったものの、好き放題に優太や青木を利用され、挙げ句の果てには【歪みきった仲間観】を押し付けられてこの狂った白銀世界に閉じ込めようとしてくるヤツらに対して反撃の意を込めた誠の攻撃は少なからず【アズキ達】を困惑させることができた。 【ああ 、 そう か …… ……っ __ これ が 痛み と いう もの か 。 俺 は 、どんどん ニンゲン に 近づい て いる !!なんと 、素晴らしい ことか …… それ に ついて は 、マコト …… ……お前 に 感謝 して あげよう じゃない か 。 ありがとう …… っ …… ダイイチキュウ の ニンゲン よ !! そんな 、おろか で 高潔 である お前 に お礼 を しよう 。 とっておき の プレゼント さ …… ……】 血は流れていなかったものの、【アズキ】の手首に小さな傷を与えてやることができた。しかし、それでも彼は口元では笑みを浮かべつつも目だけは笑っておらず明らかに憎しみを込めて誠を睨み付けてくる。 すると、その次の瞬間――誠達の予想を遥かに越える出来事が起こる。 【アズキ】は誠が手のひらの死角を利用してまんまと隠し持っていた折り畳み式小型ナイフを奪い取ると、そのまま乱暴に奪い取り、グサグサと何の躊躇もなく先ほど傷つけられた手首の傷に突き刺すのだった。 【アズキ】の傷口は徐々に大きく開いていき、体内からダイイチキュウに存在するケーブルのように細く長い【赤と青】の血管が意思を持つかのように動きながら、あまりの光景に言葉を失うしかない誠達の方へと向かってくるのだった。

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