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【アズキ】と【その他の群れ】のこうげき!!③
◆ ◆ ◆
ふと、誠の目に飛び込んできたのは、懐かしいダイイチキュウの【家】の光景____。
そして、誠の鼻を刺激したのは妙な焦げ臭さだった。
誠は、静寂に包まれたリビングルームに一人で立っている。
左脇には、何もついていない真っ暗な画面のテレビがある。真正面にある大きな窓の外では雪がしんしんと降り積もっていて、顔が出来ていない雪だるまがあるのが分かる。
靴下さえ履いておらず、薄茶色の冷たいフローリングを踏みしめながら尚も鼻を刺激してくる焦げ臭さの正体を知るためにフラフラした足取りで歩みを進めていく。
すると、何の気なしに背後を振り向いた誠は白いキッチンの横にピッタリとつけてあるテーブルの上に誕生日ケーキが置いてあるのに気付いた。
【まま 、 おたん じょう び おめで とう !!】
と、ホワイトチョコレートのペンで書いてあるプレートが乗ったダイイチキュウでは割とスタンダードなイチゴのショートケーキだ。そして、チョコプレートの周りには十本の蝋燭が飾ってあるが炎はまだ灯されていないようだ。
ミストやサン、引田(ライムス)__それに、シリカの姿が見えない。いや、それだけでなく意識を手放すまでいた筈の【アズキ】、【キナコ】、【マッチャ】――あとは奴らに洗脳されきってしまっている偽の優太や青木の姿もない。
リビングルームの中は、シーンと静まりかえっていてそれが逆に不気味さを醸し出している。そういえば宿屋の中にいた複数の《冒険者風の男達》の姿も今はない。
けれども、ふいに誰かの気配を感じたので誠は再び外で雪が降り続ける窓の方へと視線を戻す。
窓の前には、ダイイチキュウでいた頃――大好きだったと思い込んでいた存在が、どことなく照れくさそうな様子で立っている。
『あ、 おにーちゃん……まま、は――もう少ししたら 、こっち に きて くれる って !! どう か 、した ? 』
「…… ……(雪菜) !?」
いつの間にか、背後から姿を表した《自分に植え付けられた記憶の中にしかいない筈の妹の名前》を叫んだつもりだった誠____。
しかし、自分の意思では声を出せていないことに気付いた彼は驚愕に目を丸くしてしまう。そのため、【妹の雪菜】に何という反応を示せばいいか分からず突っ立ったままだった。
ブツッ…………
と、その時____。
誠と【妹の雪菜】の左脇にあるテレビのスイッチが勝手に入る。もちろん、二人はテレビになんて触ってなどいないというのに、ある映像が映るのだった。
「…… …… (ミスト、それに引田やサン) !?」
またしても、自分では大きな声で勢いよく叫ぶようにして唐突についたテレビの画面内から此方を見つめている仲間達に向かって問いかけた筈なのに――どうしても、声が出せていないことに気付いて凄まじい不安を抱いてしまう。
すると____、
『もう 、おにーちゃん っ たら …… ……そんな に 、ボーッ と しちゃって 。ほら 、まま と ぱぱ も 来たよ !! いっしょ に 、まま の お誕生日 パーティー しよう よ …… …… ねっ? 』
【妹の雪菜】が微笑みかけてくるのと同時に、左脇の画面内にいる仲間達も笑う。
テレビの中にいる仲間達は、愉快げに、嬉しそうに、幸せそうに――誠と【妹の雪菜】を祝福するようにケラケラと互いに笑い合うのだった。
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