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【アズキ】と【その他の群れ】のこうげき!!④
「…… ……(ミスト、サン、引田__どうしても……声が出ないんだ……っ……) !!」
『おにーちゃん ったら 、きんぎょ の 真似 してるの ? へんな、おにーちゃん 。口を ぱくぱく させて も この こ たち には 届かないよ ?』
【妹の雪菜】の言葉を聞いて、自分では声を出せているつもりでも、それが音として表に出せてていないという異常な程の恐怖を自覚した誠はすがる思いでテレビの画面の中にいる仲間達へ懇願する。
しかし、そんな誠の思いもむなしく――テレビの画面の中にいる仲間達は皆が皆、愉快げに笑い合っていて此方の異常事態に気付く素振りさえない。
『もう、このキャラクター……全然、思い通りに動いてくれないんだけど!!主人公なんだから、こっちの思い通りに動いてくれないとか……これ、絶対にバグだよ、バグ!!』
『まあまあ、ヒキタったら……そんなにムキにならなくても。こういうのはさ、少しコツがいるんじゃない……ミストにコントローラー貸してみてよ……ねっ?』
『まったく、そんなに気になるなら……いっかい電源をオフにして、リセットしてみればどうだ?』
そんな会話が、混乱するばかりの誠の耳に届く。此方は発言が言葉として出てこないというのに、テレビの向こう側にいる仲間達の言葉だけが聞こえてくるというこの異常事態は普段は割と冷静な方である誠の精神的に少なからずダメージを与えて混乱させるには充分だった。
よく見ると、仲間達は手にコントローラーを持っている。
そして、テレビ内の引田が持っていた赤いコントローラーを隣にいるミストへと引き渡してから少したった後、また新たなるピンチが誠に襲いかかるのだ。
「……っ…………(か、体が……勝手に……)!?」
テレビ画面の中にいる【ミスト】が尚もふてくされているような表情を浮かべながら【引田】から赤いコントローラーを受け取り、おもむろに手元を動かす。
すると、先ほど声が出せなくなったのと同様に今度は自分の意思とは関係なく勝手に体が動き始め、誠に更なる混乱をもたらした。
一歩、一歩____確実に、妹の雪菜いわく【母の誕生日パーティー】があるというキッチン付近へと近付いていく。己の意思でなく勝手に動いているせいかは分からないが、誠には足が鉛のようにズシッと重く感じられる。
唯一、自分の意思で動かすことができる目をテレビの方に向けると――テレビの画面内にいる【引田】や【サン】と違って真剣な表情を浮かべ此方を見つめながらコントローラーを動かしている【ミスト】に気付いた。
「…… …… …… (ミスト____)?」
テレビの画面内にいるミストの異変を気にしつつも、その意図が汲み取れない誠だが、ふいに勝手に動いていた足が止まった。
てっきり、キッチン脇にあるテーブルに座らせるまでが画面内にいる【ミスト達】の目的だと思っていた誠は思わず呆気にとられてしまう。
それは、原因が何かまでは分からないものの、唐突にキッチンカウンターの片隅にちょこんと置かれている《貯金箱》の前で誠の足が勝手に止まったせいだったからだ。
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