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【アズキ】と【その他の群れ】のこうげき!!⑤

(どうして、こんな場所で画面の中にいるミストは俺を止めさせたんだ……っ____) キッチンカウンターに行くまでに通ったテレビの画面の中にいる【ミスト】は何か伝えたいことでもあるのか――と、確固たる根拠もなしに思った誠は中に小銭が入っている透明なガラス瓶の《貯金箱》を見つめるしかない。 自分の意思で動かせるのは、せいぜい両目だけ――という異常事態が普段であれば難なく許される【自由な行動】を誠に許してはくれないのだ。それは、ほぼ間違いなく今も何処かで自分達を嘲笑っている【アズキ達】や、かつては共に勉学をしていた【チカ】による攻撃のせいだろうと察しかけていた。 (いや……チカは俺や優太達にとって敵といえる存在だが、こんな卑怯なことはしない……っ__少なくとも、いくら敵とはいえ……優太を犠牲にするわけがない……つまり――このふざけた攻撃は……あのアズキとかいういけ好かない奴が仕掛けてるのか……俺の妹の雪菜まで利用して……絶対に許さない……っ__) しかし、誠はハッと気付いてしまう____。 いくら、何処かから誠を精神的に追い詰めるような攻撃を【アズキ達】が仕掛けていることを知ったとして怒りを覚えようとも今のこのピンチな状態では為す術がないのだ。 今まで過ごしてきた中で、初めて感じる【一人しかいないという恐怖】____。 今までの道中も、決して楽ではなかった。 《ダイイチキュウ》という世界の学校で過ごしていた状況から《ミラージュ》に戻されて、誠の人生は鏡のように正反対になってしまったといっても過言ではない。 けれど、どんなに厄介な敵が立ちはだかっても――かつては友人だったこともあった【チカ】という存在から裏切りを受けても――周りには《信頼できる大切な仲間》がいた。 だからこそ、これまでのピンチを幾度となく乗り越えられたのだ。 けれど、今は――敵の用意した【記憶にしかないダイイチキュウでの家】という舞台の上には操り人形のような誠がただ一人いるばかり__。 しかも、操り人形と化してしまった為す術もないという最悪の状況で――ただ一人、もがき続けるだけ____。 ただ案山子のように立っているしかないという強い絶望に襲われた誠が、今までにないくらいに弱気になり、愛しい恋人の優太の笑顔を思い出した時だった。 新たなる異変が起きたのだ____。 【ハッピーバース……デイ__】 【トゥ、ユー……ハッピーバースデイ__】 【トゥ、ユー……】 (だ、ダメだ……っ……この雪菜の歌を――最後まで聞いたら……取り返しのつかないようなことになる気がする……っ__俺の本能が……そう告げている……っ……でも、どうしたら……) それは、ほぼ誠の勘だった。しかし、どうしても嫌な胸騒ぎを感じた誠はすがる気持ちで再びテレビの方へと目線だけを左へと向ける。けれども、光の反射のせいか――はたまた、消えてしまったのか【喜びはしゃぎながらゲームをする仲間達】の姿は今はもう確認できなくなってしまっていた。 そうしている間にも、【妹の雪菜】の愉快げな歌は続く。 【ハッピー、バースデイ……ディア、ママ……】 【妹の雪菜】の口から《ママ》という言葉が発けられた途端に、目の前にいる敵の姿が変化した。今までは、ただ真っ黒な人型の影が二体、キッチン脇のテーブルを囲んだ椅子に座っていたのだが、彼女が軽快な口ぶりで【ママ】と発した途端に、画面内にノイズが走った時のように体がビクビクと震え揺らめいたかと思うと【ママ】と呼ばれた影の顔が優太そのものになり、その隣にいる影の顔は青木そのものへと変化したのだ。 二体とも、いかにも幸福だといわんばかりに満面の笑みを浮かべているその光景は不気味としか言い様がない。 【ハッピーバースデイ……】 【トゥ___……】 あと、大切な仲間の存在を乗っ取っている不気味な二体の影が完全には火のついていない味気ない最後の一本の蝋燭に火種を近付けようとしているのと__【妹の雪菜】が、それとほぼ同じタイミングでバースデイの歌を歌い終えよつとしていた時だ____。 誠の背中を向けている方にあるテレビから『ボンッ__!!』という奇妙な音と、その直後――妙な焦げ臭さがリビングに漂う。 異変は、それだけではない____。 ふと、急に体を動かせるようになったと気付いた誠が慌てて背後を振り向くと今まで【ゲームを楽しんでいたミスト達】が映っていたテレビから炎があがり白煙が吹き出ている。しかも、画面にヒビが入って明らかに壊れてしまっているのが目に見えて分かる。 敵も、そのことは予想出来なかったのだろう。 異常事態に戸惑う二体の影は、先程までの誠と同じように動きを停止し__陽気な歌声を部屋中に響かせていた【妹の雪菜】でさえ、動揺して呆然としている。 そして____、 「……っ…………!?」 敵達に負けず劣らず呆然としている誠を叱咤するかのように、ふいに【ヒビ割れた真っ暗なテレビ画面】の中からポイッと放り投げるかの如く――見覚えのある物が飛び出てきたため、それを取り逃さないようにギリギリでキャッチするのだった。

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