577 / 713
誠のはんげき!!①
(これは……ミストの杖___!?何で……この杖が……っ……まさか、あの画面の中のミストは……完全に操られたわけじゃなかったのか……)
そんな風に、誠が疑問に思った所でテレビがボンッという音をたて爆発し、尚且つ白煙まで撒き散らしていたため、もはやミストの真意までは分からない。
しかし、今――こうして誠の手に彼の杖があるということはミストが『どうにかして敵の手中にある其処から抜け出すために足掻け』というメッセージを発しているのと同意なのだ、というのを誠な察知した。
誠が仲間からのメッセージを察知したのと、ほぼ同時にふと、彼の脳裏にある《幼き頃の記憶》が甦った。
※ ※ ※
ミラージュの王宮内____。
『父様……おれの使う魔法って、悪いものなの?』
『いいや、魔法は悪いものじゃない。もちろん、お前が悪い訳でもない……ただ、お前の魔力が強すぎるせいだ……だから、お前の魔力を封じ込めたんだ……だが、お前がもしも__大切な者を守るために使うと決意した――その時には……わたしも、お前を……救うために尽力しよう』
鎧を身に付けた兵士らしき人物から、取り押さえられる《父様》と呼ばれた男は、誠の頭を最後に撫でると――そのまま何処かへと連れられていく。
側には、ミストとサン__それに今は別の敵でありダイイチキュウからわざわざミラージュに来たという【金野 力】に捕らえられているはずのナギが慌てふためき、ミストに至っては泣き叫ぶ素振りをしながら《父様》を屈強な兵士達から必死で引き戻そうとしている。
玉座に座り、王冠をつけたミラージュの王らしき人物は仮面のように無表情ながらうっすらと目に涙を浮かべつつ――その光景を傍観している。
王冠をつけたミラージュの王の隣には、愉快げに笑みを浮かべて《父様》の末路を見守る【チカ】の姿____。
と、そこで唐突に誠の意識は【幼き頃の記憶】から引きはがされる。
※ ※ ※
それは、【チカ】が植え付けたであろう《偽の記憶》ではないことを誠は本能として捉える。
そして、それと同時に――この唐突に甦った【幼き頃の記憶】こそが今のピンチを乗り越えるためのヒントとなりうるべき現象なのではないかということも本能として捉えたのだ。
(もしかして、今このタイミングで本物の記憶が甦ったのは……俺に大切な者を守るために魔法を使ってくれというミストからのメッセージなのか……っ……)
もはや、迷っている暇などない。
敵達が動揺をあらわにしているせいで、敵の手中にあるこの世界でようやく体を動かせるようになった今しかチャンスはないのだ。
「*Ё∽еёЮ∽ 、∽Юёе∽Ё*……」
誠が意を決して、今まで無意識のうちに封じ込めていた魔力詠唱を行う。すると、杖先から黒いスライムが二体現れ【全身真っ黒で顔だけが優太なもの】と【全身真っ黒で顔だけが青木なもの】へと目掛け飛び込んでいく。
詠唱をした誠にでさえ、その魔法がどんな効果があるのかは分からない。意識を集中させた途端に自然と言葉が出てきたからだ。
黒いスライムは、あっという間に二体に纏わりついたかと思うと__そのまま、網のような姿へと変化させその二体らを捕らえた。
「*Ё∽еёЮ∽ 、∽Юёе∽Ё*……!!」
それが敵を捕らえて離さないようにする攻撃というよりは妨害寄りの魔法だと判断した誠は、またしても自然と詠唱をする。もちろん、今度は敵のメインともいえる【妹の雪菜】を捕らえるためだ。
ともだちにシェアしよう!