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誠のはんげき!!②

先程と同様に、黒いスライムが網目状に変化して【妹の雪菜】を目掛けて飛び込んでいく。 しかし、誠が思うような結果にはならなかった。それは、つまり__【妹の雪菜】を捕らえて動きを封じ込めることができなかったということだ。 【妹の雪菜】は既に捕らえられていた【黒影の優太や青木】達よりも、賢く――力もあることが伺い知れた。【彼女】は、誠が敵である己にを何をしようとしているのか考えてた上で誠に油断させるためにギリギリまで避けようとせずにその場にとどまっていたのだ。 【妹の雪菜】には、ある程度の知性がある__と悟った誠は彼女の体に触れた途端にジュワァァーと、まるで熱しられた鉄板の上に置かれた肉のような音を響かせながら溶けていく黒いスライムの残骸を見て、その悔しさから唇をギュッと噛みしめる。 ここにきても、まだ――誠は作られた記憶の中にしか存在しない【妹の雪菜】をなるべく傷つけることはしたくない、という《甘い考え》を抱いていた。だからこそ、どうにか【彼女】を傷つけることなく捕らえるにはどうすべきなのかという疑問がグルグルと頭の中を駆け巡っているのだ。 しかし、考えているのは【妹の雪菜】に対するものだけではない____。 キッチンカウンターに置いてある《硬貨の入っている貯金箱》を、どうすれば自分の元にこさせることが出来るかという件に関しても心の隅で考えていた。 ※ ※ ※ 『おにいちゃん、ままの……お誕生日プレゼントを買うために……ここに、お金を入れてね?雪菜も……いっしょうけんめい――貯めるから!!』 『ええ……っ……俺、買いたいゲームがあるのになあ……って、あっ……!?』 ガチャンッ____。 ぞんざいに《ガラスの瓶の貯金箱》を持ったせいで、幼き頃の誠はそれを床に落としてしまう。そして、涙ぐみながら《貯金箱》を拾いあげて、どうにか傷ひとつなかったそれを手元にギュッと大事そうに抱き締める妹の雪菜__。 『ご、ごめんな……っ____俺も一緒にお金を貯めるから……だから、許してくれ』 『ううん、違うよ……おにいちゃん。あやまるなら、雪菜じゃなくて__この貯金箱と中にある、乱暴にされちゃったお金にあやまって?』 『えっ、何でだよ……?』 『だって、物であるお金にだって……魂は宿るんだよ。ええっと、つ……つく……何とかって――学校の授業で教わったもん!!』 ※ ※ ※ えっへん、と自慢げに笑う、かつての記憶の中にある【雪菜】の顔が誠の頭を支配した時に電撃に撃たれたかのような衝撃が彼を襲った。 そして、次の瞬間には既に誠は行動に移していたのだ。 先程のように黒いスライムを出現させる《低級魔物召還魔法》の詠唱をし、尚且つ__杖先を【妹の雪菜】ではなく、キッチンのカウンターの方へと向ける。 それは、【妹の雪菜】を捕らえるためではなく__そこにポツンと置いてある《ガラス瓶の貯金箱》を捕獲するためだからだ。

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