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誠のはんげき!!③

詠唱主である誠が、ミストから託された杖先から出現させた【網目状の黒いスライム】によって無事に《ガラス瓶の貯金箱》を捕獲し手元に引き寄せると、明らかに【妹の雪菜】の様子か変わった。 つい先程までは、陽気にハッピーバースデーの歌を歌っていたというのに――誠が《ガラス瓶の貯金箱》を手にした途端、無言となり抵抗するような素振りさえ一切見せないのだ。 (今のこの異様な状況では仲間である偽物の優太と青木が捕らわれてるせいで、動揺したせいか……いや___) そうじゃない――と誠が悟ったのは、【妹の雪菜】がまるで自分を責めるような、はたまた悲しみを込めたような目付きで此方を見つめてきたからだ。 【おにいちゃん……雪菜と――もう遊んでくれないの?ままのお誕生日、いっしょに……おいわいして……くれないの?】 それを裏付けるように、【妹の雪菜】は涙ぐみながら未だに戸惑いを浮かべる誠へと尋ねてくる。【妹の雪菜】は、自分の記憶の中にしか存在しない。それは、つまり――この【チカが作った偽物のダイイチキュウの記憶世界】から抜け出してしまえば二度と会うことはないということ____。 「ごめんな……雪菜。本当は、おにいちゃんも……ここにいて、お前と遊んでやりたい。ずっと一緒にいたい……でも、それは無理なんだ」 【どうして?】 「おにいちゃんはな……もっと、もっと……困って弱っている仲間を助けなきゃいけないんだよ。大好きなやつらの声に答えて、家から出て行かなきゃいけない。雪菜、これだけは伝えておく……どんなに、届かない存在でも……お前は、おにいちゃんの大事な妹だ。これから、わるものをやっつけてくるよ……お前は、応援してくれるか?」 【そっかあ……おにいちゃんは――みんなを助けるヒーローなんだね。ねえ、雪菜ね……まだ外にある雪だるま、作れてないんだ。おにいちゃん、雪だるま__作ってきてくれるかな?雪菜、おにいちゃんが戻ってこれなくても、ずっと待ってるし……それに、応援してあげるから……ねっ?】 にっこり、と微笑みながら雪がドサドサと降り続けるのが見える窓の方へと指差しながら【妹の雪菜】は誠へとお願いする。 後ろ髪を引かれる思いで、誠は大切そうに《ガラス瓶の貯金箱》を抱えつつ窓へと力強い足取りで進んでいく。柄にもなく涙が溢れそうになるのを必死で堪えながら、二度と雪菜の方へと降り向くことなく窓へたどり着いた誠は本当の敵である【アズキたち】へ鉄槌を下してやることだけを考えてガラッと勢いよく窓を開けるのだった。

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