580 / 713
誠はキーアイテム《貯金箱》を手にいれた!!①
◆ ◆ ◆
徐々に意識が戻ってきて、暗闇から光を取り戻した誠は真上から覗く三つの不穏な影の気配に気付き、目だけをそちらへと向ける。
右手に、ミストの杖を持っていることに気付あたものの__三つの影は、そのことは特に気にしていないようだ。いや、ただ単に意思の宿っていない彼らの空虚な目には映っていないだけなのかもしれない。
【あれ 、 、戻って きた のか 。まあ 、たいした 問題 じゃ ないけれど …… ……戻って くる とは よそうがい だった な 。 キナコ 、 マッチャ …… ……もう少し 、俺 に 協力 して くれる か
?】
【 …… …… 】
リーダーである【アズキ】の言葉を聞いて、その他の二つの影は無言のままコクリと頷いた。そんな、【キナコ】と【マッチャ】の様子に対して警戒したものの、誠はふいに鼻を刺激してくる焦げたような匂いが気になったため何処からそれが漂ってくるのか目をキョロキョロさせつつ辺りを見渡す。
それは、敵の攻撃のせいなのか体全体が僅かに痛み――尚且つ、ビリビリとした痺れも感じる。完全に動かせない訳ではないものの比較的自由に動かせるのは両目だったせいだ。
「ひ……っ____」
普段はあまり感情を出さず、なるべく冷静さを保っている誠なのだが――横たわる己の眼前に広がる異様かつ不気味な光景を目の当たりにしたため小さな悲鳴をあげてしまう。
【誰か】の右手と左手が一体ずつ、誠の顔の前に置かれている。しかも、それぞれの五本指――つまりは、合計十本の指先にはまるで蝋燭のように炎が灯されており、これが周囲に漂っている焦げ臭さの正体だと理解した。
ふと、誠は真上から覗き込んできた【キナコ】と【マッチャ】の片手(手首から切断されているようだ)がないことに気付いた。すっぱりと綺麗に切断されているようだが、その割には一滴の血も流れておらず床にもシミができていない。
その理由を、誠は理解していた____。
【アズキ】、【キナコ】、【マッチャ】はゲームの中に存在するキャラクターだからだ。だからこそ、手首を切られようが__もし、仮に首を切られようとも一滴の血も流れず苦痛に満ちた表情すら見せないのだ。
現に、今――誠を真上から見下ろしている【キナコ】と【マッチャ】はマネキンのように無表情なのだから。
(何故、こいつらはこんなことをしているんだ……っ__いや、待てよ……確か以前、何処かで手首を切った後にその指先に炎を灯し祈りを捧げると願いを叶えられるという黒魔術を見たことがあったような……まさか、こいつら――いや、アズキは仲間の手首を切断し、あの雪菜との世界に俺を閉じ込めるという願いを叶えるために仲間を利用したのか____)
赤いリボンのついた【包丁】で【アズキ】は仲間達を利用しただけでなく今となっては永遠に会えなくなってしまった《雪菜》の気持ちを踏みにじったのだ、と――誠が自覚した。
その直後、妹の思いを侮辱されただけでなく《仲間》に対しても侮辱する【アズキ】に対して凄まじい怒りが込み上げてきた。それは、マグマのように熱く、いつ誠の怒りが噴火してもおかしくはない。
【お っと …… ……ずい ぶ ん と 元気 に なった よ う だ ね 。 まあ 、 こちら も たの しく は ない から ね 。バグ 因子 を 退治 する クエスト が 台無し だ 。そう、だろう …… ……さすが は キナコ 、マッチャ …… ……持つべき もの は 仲間 だ !!!】
勢いよく起き上がった誠は、思わず理性を捨て去り【アズキ】に殴りかかろうとしていたものの、それを意外な存在により阻まれてしまう。
ミストから託された杖先から出てきた黒いスライムだ____。
どうやら、最後に杖先から出てきた黒スライムが、いつの間にか誠の懐に隠れていたようだ。必死で何かを伝えたそうにボインボインと周りを飛び跳ねているのだけれど、その意図がなかなか誠には伝わらない。
すると、痺れを切らしたかのように黒スライムが次なる行動に出る。
仲間のライムスのような人型へと変化するのではなく、ダイイチキュウで見慣れていたある文字と記号へとその粘液まじりの姿を変化させていき床を汚していくのだった。
ともだちにシェアしよう!