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誠はキーアイテム【貯金箱】を手に入れた!!②

意思を持ったかのように、うねうねと動く黒スライムは――やがて、誠へのアドバイスともいえる言葉を示す。 《キンカ → ナカマ 二 カエセ》 床に示された文字に釘付けとなった誠____。ミストの杖先から出現した黒スライムがなぜダイイチキュウの片仮名を知っているのか、だとか――そもそも、なぜ消えなかったのだとか――そういった疑問は打ち消せなかったものの、それよりも誠には今すべきことを成さなければならないと思い直す。 その直後、誠はある場所へと目線を向けた。 まるで、『用済み』だといわんばかりに【アズキ】のすぐ側で囚われ意識を失ってしまっている優太と青木__。正気に戻ったかは明確には言えないものの、周りにいるミスト達と同様【アズキ】のケーブルのように細長い赤と青の血液によって体全体を締め付けられてぐったりとしているその様は先程のように一方的に操られてしまっているようには見えない。 と、ここにきて__つい先程まで何も行動せずジッと此方の様子を観察し、なおかつ片方の手首をリーダーの【アズキ】の命令でわざと失った【キナコ】と【マッチャ】が再び不穏な行動をする。 【♪ ♪ ~ ~ ♪♪♪ ~ 】 二人揃って、歌を歌い始めたのだ。 その曲調は――ダイイチキュウの子守唄のように、ゆったりとしていて敵が歌うものでなかったなら誠でさえも聞き惚れていたに違いない。 しかしながら、誠は本能的に危機を察知していた。血も涙もない冷酷なリーダーの【アズキ】によって切り取られた二人の片手首の指先の炎が、ついさっきまでは僅かなすきま風に揺られる度に消えそうになっていたにも関わらず【歌】が聞こえ始めた途端に豪々と燃え上がったからだ。 それを見た途端に、再び【アズキ】が仲間だと言い張っている下僕たちの【キナコ】と【マッチャ】を利用して作りあげた世界に今度こそ永遠に閉じ込められてしまう__と悟った誠は、そうはさせて堪るかと宿屋のカウンターの上へと目を向ける。 ダイイチキュウの1円玉が何枚も入っている《貯金箱》____。 黒スライムが、わざわざ形を変化させてまで示した《キンカ》というのは、あの中に入っているものなのだ。それを、分かったのはいいけれどもその語に続く言葉に誠は少しばかり戸惑いを覚えてしまう。 (キンカはともかくとしても、ナカマ 二 カエセ……とは――いったい……どういう意味だ) と、ここにきて誠は再び壁にぶつかってしまった。眉間に皺を寄せながら、これから《貯金箱の中のキンカ》をどうするべきかということに思い悩む。 ふと、どこか懐かしさを感じる視線を横から浴びた誠は左側へフッと目線を向ける。カウンターの宿屋の娘がじっと誠を見つめていた。無表情のままだが、そこはかとなく懐かしさと温かさを感じた。 「そうか……っ…………そういうことか……っ__」 誠の頭の中に、天から舞い降りたかのように――唐突にひとつの考えが浮かびあがってきたため無意識のうちにその言葉を発していた。 そして、誠は捕らわれたままぐったりとしているミストから借りた杖を再びギュッと力を込めて握ると――黒スライムをある場所へと誘導するべく魔法詠唱をするのだった。

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