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誠はキーアイテム【宿屋の硬貨】を使った!!

誠が網目状になった黒スライムを誘導した場所____。 それは、この【白銀の世界】に閉じ込められて【宿屋】へとたどり着いた時からカウンターにポツンと置かれていた《ダイイチキュウの一円玉によく似た形状の硬貨が何枚も入っているガラス瓶》だった。 (あれが、この狂った宿屋から抜け出し――尚且つ、アズキ達に一矢報いるために必要になるはず……っ……雪菜が……俺の妹が身をもって教えてくれた……キーアイテムだ) 『キラキラ光る金貨にも、灰色の硬貨にだって……同じく魂は宿るんだよ__おにいちゃん!!』 ふっ、と__大切な雪菜の声がすぐ側から聞こえてきたような気がして、カウンターに置かれていた《硬貨の入ったガラス瓶》を手に入れた誠はそれをマジマジと観察する。 雪菜の言う通りであれば、誠が先程からずっとしたかった目的のモノがこの中にあるはずだと確信していたからだ。 【キナコ】と【マッチャ】の切り取られた左手と右手の指先に、じわりじわりとはいえ確実に炎が灯っていく。時間がかかる攻撃とはいえ、油断は禁物だ。 何故なら、試しに彼らへと僅かでもダメージをくらわせることが出来ないだろうかと思い立った誠が床に転がっている剣を投げてみたものの、二人の周りには強固な結界が張られて傷ひとつ追わせることが不可能だったからだ。 それすなわち、誠が目的のモノを《硬貨が入っているガラス瓶の中》から探し出せなければ再び【アズキの思惑通りの世界】に閉じ込められゲームオーバーになることを意味している。 あまり、時間がない____。 早く、正気を失ってぐったりいる【優太】と【青木】を救い出し――尚且つ、囚われの身のミスト達も助けなければいけない。 そのために、誠は《硬貨が入っているガラス瓶》の中身を床に落とす。そして、なるべく素早く金貨の山に異変がないかどうかを目視のみで確認する。 すると、僅かながら__ボンヤリと青白く光る硬貨を山の中から見つけ出す。その二枚を取り出し、満足そうに笑みを浮かべた誠は何の躊躇もなくその光る二枚の硬貨を【優太】と【青木】の体へ向けて投げたのだ。 その直後、今まで目を瞑り――びくともしなかった二人に異変が起こる。彼らの全身が青白い光に包まれていく。やがて、その青白い光が宿屋全体を包んだかと思うと、暫くして同じように囚われの身となっていたミストやサン達も目を覚まし、今までグッタリとしていたのが嘘かのように活気を取り戻したのだった。 いや、それだけではない____。 この宿屋に足を踏み入れた時から、テーブルに腰掛けていた姿が全く同じ【冒険者たち】も姿が変わっていく。 まるで、呪いが解けたかのように一斉に皆が皆、本来の姿【ダイイチキュウから連れて来られた人間】の姿へと戻っていくのだ。 集団の中に女性はいないものの、その容姿は如何にも仕事に疲れきった年配の男性や、引きこもってますといわんばかりのオドオドしている男性――それに、中にはイケメンで若そうだけれども生気を失った瞳を此方に向けてくる男性もいる。 とにかく、皆が皆__生きることに希望を失っているかのように誠の目にはうつった。 【せっかく 、妹 と の 甘い ひととき を 与えて あげよう と していた の に …… ……自ら それ を 手放 す なんて …… ……やっぱり 、ダイイチキュウ の バグ は愚か だ な 。 キナコ 、マッチャ― ― ― もう 、それ は いい 。 それ を した ところ で この バグたち に は 効かない …… ……ずっと 、共に 過ごし て きた 仲間 だった お前ら なら 分かっ て くれる よな ? これから 、 オレ が 何 を しよう と して いる の か __ 】 ダイイチキュウに暮らす人間のように、顔を歪め不快さをあらわにした【アズキ】の低くて何の感情も込もっていない機械的な声が宿屋の中に響き渡るのだった。

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