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【アズキ】はキーアイテム《とある女の子がプレゼントした包丁》を使った!!
【アズキ】は、まるで王に仕える騎士のように従順な《仲間》__【キナコ】と【マッチャ】が言われた通りに魔術の詠唱をするのをピタリと止めて待機しているのを見て、どことなく満足げに微笑んだ。
出会ってから最初のうちは、人形のように無表情で――それは誠自身が記憶の中で作りあげたゲームキャラクターだったせいからだと思った。
でも、ここにきて誠の頭に嫌な考えが浮かんでくる。
(もしかすると……アズキは――仲間を利用してまで……このゲームの世界から出ようとしているのか……っ__だとすると、奴の目的は――バグ因子だと思っている俺らを退治して取り込み……完全な人間になってこのゲーム世界から外の世界へ行くこと……)
【アズキ達】が主従関係とはいえ、チカや金野と繋がっているのなら__おそらく、「人間にしてあげる舞台を用意する代わりに俺らを退治しろ」と彼らから持ちかけられてもおかしくはない。
その考えに思い当たり、誠は拳をギュッと力を込めて握る。もちろん、凄まじい怒りを覚えたからだ。【アズキ達】に対してもそうだけれども、黒幕ともいえるチカや金野に対してもだ。
何が何でも、この白銀のゲーム世界から抜け出さなくてはいけない。愛する雪菜のためにも、そして無関係なのに無理やり巻き込まれたダイイチキュウの人間達に対しても、そう決意した誠はある行動に出る。
自分達へ敵意を剥き出しにしたのは、もちろんのこと愛する妹の雪菜や無関係なダイイチキュウの人間達を利用し、挙げ句の果てに危害を加えて天狗のように振る舞う【アズキ】の元へ勢いよく駆け寄ると、その顔面にギュッと固く握った拳を振り下ろし殴ろうとしたのだ。
【アズキ】はもはやゲームキャラクターではなく、人間として微笑んでいた。ただ、本物の人間と違って狼狽したり咄嗟に顔を逸らそうとしないのは、奴がまだ完全には人間へとなりきれていないのが伺い知れる。
しかし、そんなことは怒りと悲しみに支配されている誠にとって、どうでも良かった。とにかく、目の前にいる【アズキ】に鉄槌を下してやらないと気が済まない。それは、優太や青木を利用されたことも勿論理由には含まれていたけれども、自分にしかない《愛しい雪菜との記憶のひととき》を利用されたことも理由として大きかった。
もうすぐで【アズキ】の頬に、誠の振り下ろした拳が当たる――といった時だった。
「誠…………っ____」
今まで無言でことを見守っていた優太が誠に駆け寄ってきて、怒りに任せた行動を取ろうとする彼の肩をぐいっと引き寄せると、真剣な眼差しを向けつつ首を横に振る。
その優太の行動に対して、「俺と雪菜のことを……お前は何も知らないのに何故止めようとするんだ!?」と恋人であり大切な仲間でもあるのに僅かながら憎く思ったため鋭い目付きを彼に向けた。
しかし、優太は誠から目線を逸らそうともしなければ呆れて側から離れようともせず真剣な表情で此方を見つめたままだ。
ばしっ、と唐突に乾いた音が響く____。
怒りに任せた行動を取ろうとしていた誠の頬を、優太が平手打ちした音だ。
「今、するべきことは……それじゃないよ。賢くてクールな誠なら僕の言いたいこと、分かってくれるよね?妹の雪菜ちゃんのためにも……今は堪えて――為すべきことをしなくちゃ」
「…………っ___優太、ありがとうな。俺の目を覚まさせてくれて」
優太が何故、雪菜のことを知っているのかは気になった誠だったけれど大好きな彼の強烈な一発によって、だいぶ目が覚めた。
出来ることなら、今すぐにでも愛しい優太をギュッと抱き締めたかったが、それは叶いそうもない。
何故ならば、誠が冷静を取り戻したのとほぼ同時に【アズキ】もバグ因子だと思い込んでいる自分達に新たなる攻撃を仕掛けようと行動に移していたからだった。
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