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生まれ変わった【アズキ】の攻撃!!だが、誠たち一行は《宿屋》から逃げられない!!①
「あっ!?」という間もなく、【アズキ】は赤いリボンの付いた《とある女の子がプレゼントしようとした包丁》を己の左胸へと突き刺した。
涼しい顔をして鼻歌まじりに、手に持つ《包丁》をぐり、ぐりと心臓を抉りとらんとするように動かすという行動をとっているのは【アズキ】がゲームキャラクターだからだ。もちろん、一滴の血すら流してはいない。ただ、【アズキ】の心臓は斜めに裂けた傷口から浮かびあがるように現れ、やがてドクドクと脈打ちながら呆然とする誠達の前に向かってくる。
それに気付いた途端に、どんな攻撃がくるのか分からず、身構えて武器を構えたミストやサンだったが、【アズキの心臓】は思わぬ行動に出る。
「____っ…………!?」
先程のように、赤と青のケーブルのように細長く伸びていく【アズキの心臓から直接生える触手のようなもの】___。
しかも、ただ単に表出してきただけでなく、伸びながら互いに重なり合って三つ編みのように太くなった、それらは警戒して身構える誠達一行に向かってではなく、【アズキ】に対して敬礼している【キナコ】と【マッチャ】に向かって明確に飛んでいく。
【アズキの心臓から生える細長い触手のようなもの】が互いに絡み合い強い力で自分達の首に巻き付き、ぐいっ__と乱暴に引き寄せられても【キナコ】と【マッチャ】は抵抗の意思すら見せない。
それもその筈で、彼らもまたゲームキャラクターでしかないからだ。プログラムされていない行動は、とれない。
【アズキ】は、己にとって有利ともいえる状況を利用してまで、バグ因子である俺たちをこの白銀のゲーム世界に閉じ込め、尚且つ自分だけが人間となり外の世界に行くことを望んでいるのだ__ということを改めて悟った誠はゾクリと身を震わせた。
やがて、【アズキ】の元に強引に引き寄せられた【キナコ】と【マッチャ】は奴の体内へと消えていく。三つ編みのように太く伸びたそれに捕らえられた後、【キナコ】と【マッチャ】は今まで等身大の人間のような姿から縮小され可愛らしくなったドット絵のキャラクターのような姿に一方的に変えられてしまい、その直後に【アズキの心臓】の中心部に現れた巨大な【アズキの口】にパクパクと食べられゴクリと飲み込まれてしまったのだ。
突如として起きた変化は、それだけではなく【アズキ】が【キナコ】と【マッチャ】だったものを飲み込んだ直後、奴の身にも周りからに目に見えて変化が起きた。黄金色に光り輝く【アズキ】は今までとは違って、まるでダイイチキュウに暮らす人間のように醜く口元を歪め高笑いする。
ゲームキャラクター故に、表情が乏しかった【アズキ】はかつての仲間達を飲み込み、尚且つ自分の欲望を実現するべく彼らの魔力を奪ったことで、より【ダイイチキュウによくいる人間】に近づいていくのだ。
【これ で 、ようやく …… …… ニンゲン に 近づい た 。 あと は 、より 強い ニンゲン に なる ため に トモダチ を 作ら なけ れ ば !! その ため に は 、 、 ___】
外側に表出された【アズキの心臓】が、今までよりもドクドクと力強く脈打つ。そして、それに同調するかのように高らかに笑いながら【アズキ】が言うや否や、またしても《宿屋》から出ることも叶わず、かといって奴に対して攻撃することもままならないせいで手も足も出せない誠達の予想を越える行動を仕向けてくる。
このような騒ぎの中でさえ、カウンターで無言のままジッと佇む《宿屋の看板娘》____。
ニンゲンになるという、欲望に燃える【アズキ】____。
今度は【心臓から直接生える触手のようなもの】を再び絡ませ合い太く頑丈にすると、そのまま【キナコ】と【マッチャ】のように抵抗すらしようとしない《宿屋の看板娘》の白く滑らかな陶器のように美しい首へ絡めると、そのまま先程と同様にぐいっとへと引き寄せる【アズキ】なのだった。
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