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生まれ変わった【アズキ】の攻撃!!だが、誠達一行は《宿屋》から逃げられない!!②
誠は、暫くの間__どうして【アズキ】が《宿屋の娘》にまで攻撃を加えて利用し、尚且つ自分達を追い詰めようとしているのか理解できなかった。
それは、周りにいて警戒心をあらわにし暴走し始めた【アズキ】に対して何時でも攻撃できるように武器を構えているミストやサン――それに、優太や青木も同じようで、特に詳しい事情が分からないまま王宮からこの《宿屋》へと強制的に連れ去られた青木に至っては事態が飲み込めないまま必死で優太を庇っている。
青木が優太にピッタリとくっつき、身を寄せ合うように互いを守っているその様を目にした誠はフツフツと心の底から沸き上がる【嫉妬心】に襲われたものの、非常事態である今はそんなことを気にしている場合ではないとハッと我にかえると、【アズキ】が先程の【キナコ】と【マッチャ】と同じような攻撃を加えたことで見る見るうちに容姿が変わっていき、それと同時に白い光に包まれる《宿屋の娘》から釘付けになって目が離せなくなってしまった。
【__に …… ……い …… ちゃ ん ……】
「ゆ、雪菜……っ____!?」
今までは質素な服でカウンターにただジッと佇ずんでいた《宿屋の娘》が、記憶の中の姿とは真逆となり、大きく成長し美しくなった【雪菜】へと変貌していく。しかも、その身には記憶の中では絶対に見られなかった純白のウェディングドレスを身に纏っていた。
右手に持つのは、ウェディングケーキをカットする銀色のナイフ。刃の根元に付いている桃色のレースリボンがヒラヒラと揺らめき、呆然とする誠の目に入ってくる。
そんな誠と【雪菜】__それに一行らを嘲笑うかのように、【アズキ】はまたもや予想外の行動をとる。
【生まれ変わった雪菜】の首筋には未だに、【アズキの心臓から生える細長いモノ】が深々と突き刺さったままだ。そして、そんな彼女と記憶の中だけとはいえ兄として過ごしてきた誠を引き裂くように、【アズキ】は突如として【美しく生まれ変わった雪菜】を乱暴に《宿屋》の扉の方へと放り投げる。
「……っ…………!?」
あまりにも突然なことに声すら出せず、誠は慌てて扉の方へと目を向ける。
【アズキ】が何故、カウンターにいる《宿屋の娘》を【雪菜】へと変化させて、尚且つ扉の方へ放り投げたのかがまるで理解できなかったからだ。
けれども、【アズキ】がどうして【雪菜】を扉の方へと放り投げたのかは、少ししてから理解した。それは、とてつもなく単純なことだったからだ。
引田が、いつの間にか敵である【アズキ】の目を盗み気付かれないように慎重に扉の方へと歩み寄っていたからだ。賢い引田は、攻撃の効かない【アズキ】を何とかするよりも《宿屋》の扉を何とかして開けて外へと逃げた方が効率的に問題を解決できると思ったらしい。
「合理的に考えるのが、何とも引田らしいな__」などと感心したのも束の間、また新たなる問題が誠達一行を襲う。
「……うっ___!!?」
【幸福に包まれる雪菜】が手に持っているカットナイフで、容赦なく引田の背中を突き刺したせいだ。この白銀世界が特別なせいか、はたまた【アズキ】の《バグ因子らをただ単に追い詰めるだけでは面白みがない》という【チカ】と重なり合う異様性願望が為すせいかは分からないけれども、ダイイチキュウで長いこと暮らしてきた人間の引田の体からは血が一滴も流れない。
しかし、その代わりといわんばかりに床へと倒れる。姿は消えたりはしなかったが、引田の体はピクリとも動かない上にその頭上には【 バグ因子 H は 勇者 に 退治された !!】と浮かびあがっていて、それと同時にダイイチキュウのゲーム内同様にキャラクターが退治された際に表示される《 † 》のマークが浮かぶ。
【 さすが は 、純白 の 天使__ユキナ だ 。この 調子 で 残り の バグ因子 も 退治 しろ 。もちろん 、 宿屋 から は 出す な よ ?】
「はい …… ……旦那 様 。全て は 、愛する あなた の ため に ――」
かつて、《宿屋の娘》だった純白の天使は――ニコリともせず無表情のまま引田の体の上に足を乗せ、透明なガラスの靴で踏みつけると何としてでも扉の前を死守するといわんばかりに、そこから一歩も動かず、【アズキ】が人間の手の形へと変化させた【心臓から生える細長いモノ】を右手にそっと添えられたままバグ因子である誠達一行へ向けて桃色のリボンがついたウェディングナイフを構えるのだった。
明らかに、【幸福に包まれる雪菜】は【アズキ】によって操られてしまっている____。
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