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生まれ変わった【アズキ】の攻撃!!だが、誠達一行は《宿屋》から出られない!!④

ダイイチキュウでは《フィギュア》と呼ばれ、一部の熱狂なファン達から愛されていたドール達が襲ってくる。 それは、誠達人間よりも遥かに小さな物で蹴り上げてしまえば、すぐに吹き飛んでしまいそうな存在だ。 しかし、数が多い上に振り払っても振り払っても、床に倒れても蛇のように執拗に繰り返し起き上がり、まるで映画の中のゾンビのように扉の前に何とかたどり着いた誠を狙って纏わりついてくる。 それのどれもこれもが、女の子の形をしているドールだったが数十体もいるドール達は節目のある腕で誠の体を捕らえてくる。それだけでなく、大きく口を開けたドール達は《バグ因子》だと思わされている誠を喰らおうとピラニアのように鋭い牙を覗かせながら襲いかかろうと群がってくる。 「ま、誠……っ__ミスト、誠にも__結界の魔法を……っ……」 と、慌てふためいた優太がミストに声をかけるが、そもそも【アズキ】の毒牙にかからなかったダイイチキュウから連れて来られた三人の人間を守るためにミストは先程から身を粉にして結界を張ってくれているため、これ以上結界を張るのは難しい。 せめて、魔力が使える者がもう一人いればいい。しかしながら、シリカはいつの間にかこの白銀世界から姿を消してしまっていた。 すると、その誠の浅はかともいえる考えを嘲笑うかのように宿屋の内部に変化が起こる。床の一部がグニャリと歪み始める。しかも、ただ単に歪んだだけではなく、水面に石を投げるかの如く波紋をえがきながら黒い穴が開いていく。 その直後、誠は自らに起こる異変に気付いた。 己の体が、そのぐるぐるとうねり波紋をつくりあげる黒い穴に向かって、徐々に吸い込まれていっている。その様は、まるで床に落ちた異物を吸い上げる掃除機のようだ。 【アズキ】は自分達を【バグ因子】だと言っていた。その名の如く、ダイイチキュウに巣くう虫__例えば蟻地獄のように、掃除機のように吸いあげていく黒穴に吸い込まれ、この【白銀世界】の一部になれとヤツは言いたげにニヤニヤと微笑んでいる。 決して自分の手は汚したくない、といわんばかりに卑怯な微笑みを浮かべてくる【アズキ】____。 ゆっくりと、だが確実に――じわり、じわりと敵の攻撃が自分の体を蝕んでいく恐怖を誠は感じざるを得ない。 (せっかく……ここまで来たのに……っ__ごめん、ごめんな――雪菜……っ……) そんな風に、ふっ――と誠が諦めの感情を心の片隅に抱きかけた時だった。 「____ダメだよ、誠!!諦めないで……今度は僕が、誠を助けるから……だから、お願い……僕の大好きな、どんなに苦しい時でも諦めない誠に戻って……っ……」 「___ゆ、優太――お前、いったい何をする気だ……っ……」 真剣な眼差しを向けて、尚且つ此方へと駆け寄ってきた優太の行動に誠は唖然としつつも問いかける。 しかし、優太の答えはない___。 それは、強い意思を持ちながら凄まじい力で纏わりついてくるドール達を無理やり誠の体から引き離し、その後に何を思ったのか未だに床に出現している黒い穴へと自ら飛び込もうとしていたからだった。 誠だけを黒い穴に吸い込ませようとしていた敵の攻撃だっからか、優太は黒い穴へと吸い込まれそうにはならかった。それを逆手に取った行動のせいか、優太は黒い穴に吸い込まれずには済んだのだが、その代わりといわんばかりに素早く敵のドール達の群れが優太の体を飲み込んでいき鋭い牙で傷付ける。 やがて、傷だらけとなってグッタリと床に倒れた優太の頭上には引田と同様に【†】マークが浮かびあがり、『バグ因子 Y は 勇者 に 退治された !! 』と文字が揺らめく。 一度は立ち直りかけたものの、仲間二人が大ピンチに襲われてしまい、もはや誠の心はズタズタになっていた。 そんな時、弱々しくなった誠に渇をいれる__といわんばかりに矢が飛んできた。もちろん、誠自身を狙った訳でなく、弱々しくなったために、その隙をついてムシャムシャと喰らおうとしてくるドール達の群れのうち一体を仕留めるべく険しく眉間を寄せたサンが放ったのだ。 「早くしろ……っ____ミストも、ユウタも……むろん、私もお前を信じてるのだ。もはや、こうなると我々が仕留められるのも、時間の問題……お前は、お前が為すべきことをしろ!!ここは、私が引き受けてやる!!」 その、サンの決死の言葉が引き金となった誠は体に纏わりついてくるドールの群れを何とか自力で引き剥がすと、そのまま脇目も振らずに再び扉まで駆けていき、壁にかけられた三つの絵の前に立つ。 【水色のドレスを着た女の子が白兎を追いかける絵】 【雪のように純白なドレスを身に纏った女の人の後ろ姿の絵】 【それぞれ大きさが異なる円が上下に二つ重なり合っている絵】 その絵を間近で見るだけでインスピレーションを得た誠は、ほとんど迷うことなく【それぞれ大きさが異なる円が上下に二つ重なり合っている絵】を半ば強引に外すのだった。

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