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誠は【一枚の絵】を使った!!【妹の雪菜】に××のダメージ!!

ほとんど迷うことなく外した一枚の絵を大事そうに抱えた誠は、尚も自分の手は汚さず操った者達を利用して卑怯極まりない【アズキ】に鉄槌を下すべく――また、それと同時に倒れてしまった引田と優太を救うべく、扉を死守しようとしている【幸福に包まれる雪菜】の前に駆け寄っていく。 そして、誠はかつてチカによって閉じ込められた【夕日に包まれ懐かしさに浸る世界】に散らばっていたクレヨンを拾っていたことをハッと思い出すとズボンをまさぐり、それを取り出す。 【それぞれ大きさの異なる円が上下に二つ重なり合っている絵】は、ただ無意味に描かれている訳じゃない。その形でなければいけないのを承知しきっている誠は、その上の小さめの円に【眉毛と目玉と口】を書き込み、下の大きめな円には【ボタンを二つ】書き込んだ。 「____Ёヱ*ゑΟΦΥΧΠ……†ёЁゑе……」 きっと、無我夢中な誠本人ですら気がついていないだろうけれど、外側から見ている青木やサン、それにミストには気がついていた。 誠は、クレヨンを一心不乱に動かしながら無意識の内に、いつもミストがしているような魔法詠唱を何度も呟いていたのだ。 「こ、これ……この魔法詠唱って____まさか、…………の……」 ミストが、訝しげな顔をしてポツリと呟いてから少し離れた場所から一行を見守るようにして跳ねている黒スライムにちらりと視線を動かしたことも、無我夢中で【雪だるまの絵】を完成させた誠は気づかない。 誠が魔法詠唱し終えた時、目の前には自らの意思で動く【雪だるま】がいた。先程、クレヨンで描き足した雪だるまにそっくりなソレは誰に命じられるまでもなく扉を死守しようとしている【幸福に包まれる雪菜】の元へ向かう。 何体ものドール達が、それを阻もうと【雪だるま】に対して牙を向けて噛みつき攻撃をするが、それをものともせずに誠の固い意思を受け継いだ【雪だるま】は自らの体を食われても執念深く己の目的を果たすために前へと進んでいく。 じれったくなったのか、【ドール達を操るオタク風な男】の口から、命令を受けた何十体ものそれらが一斉に口を大きく開けて【雪だるま】に飛びかかろうとする。 もしも、この攻撃をマトモに食らってしまったら__【雪だるま】は行動不能になり、床にベシャッと倒れてしまい目的を果たせなくなってしまうだろう。 「_____雪菜……っ……!!」 それを阻止するべく、宿屋中に響き渡る程の大声で叫ぶ誠____。 もちろん、何の意味もなく妹の名を叫んだ訳ではない。 【ドール達を操るオタク風の男】の気を引き、隙を作るためだ。もはや、分身ともいえる【雪だるま】は誠の意思をきちんと引き継いでくれたのだ。 ドール達による噛みつき攻撃に耐えながらも、無我夢中で前に進んでいき、もう少しで扉の前にいて立ちはだかる【幸福に包まれるウェディングドレス姿の雪菜】の体に触れられる、という所まで辿り着いていたのだった。 そして____、 誠は記憶の中だけとはいえ、今まで大切にしてきた【妹の雪菜】へと攻撃をする。それは、肉体的な攻撃というよりも――むしろ、精神的な攻撃で派手なものではない。 ただ、誠はこう告げただけ____。 「雪菜、庭においてあった雪だるまは俺が……もう作ってきた。だから、お前は何も心配することはないんだ」 滅多に涙を浮かべたことのない誠が、泣いているのを、すぐ側で見守っていた優太と青木が見つめていた。優太はどことなく安堵しているような表情を浮かべていて、青木に至っては何が何だか分からないといわんばかりの表情を浮かべていたもののどことなく悲しげな表情を浮かべている。 「も、もう……ダメ……ッ……このままだと結界が破けちゃうよ――マコト……ッ____!!」 ミストが【ドール達】から喰われていく結界を不安げに見つめているのを確認した誠は、すうっと息を吸い込むと溢れそうになる涙をこらえながら【妹の雪菜】の顔をまっすぐに見つめ直す。 「雪菜、お兄ちゃんを……格好いいヒーローにさせてくれ……っ____!!」 【お 、 お、に、に い ちゃ ん……は は ――雪 菜 だ、だけ ……じ ゃ じゃな く……て、て ……み、み、ん…な……ヒー……ロー…… 】 突然、壊れてしまった機械のように奇妙な口調になる【妹の雪菜】____。 しかし、彼女は最後の最後で力を振り絞ってその言葉を誠に伝えると左手を扉に触れてからズシャッと音を立てつつ宿屋の床に崩れ落ちた。 バラバラに崩れてしまった【妹の雪菜】は二度と動かない。 けれど、バラバラに崩れ落ちたのは【妹の雪菜】だけではなくミストの結界に群がってその鋭いギザギザの牙を武器に襲いかかっていた【オタク風な男が操っていたドール達】も同様なのだった。 これで、扉の守護者である【妹の雪菜】と【噛みつきドール達】は退治した。 安堵している誠達一行をよそに、【アズキ】は不敵な笑みを浮かべている。 その【アズキ】の態度は、これからどうすべきなのか我にかえった誠達が、共に宿屋の外へと踏み出そうとしていても――全く変わらないのだった。

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