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誠達一行は共に《宿屋の外》へ出た!!しかし、新たなる敵があらわれた!!①

※ ※ ※ 宿屋の外は相変わらずの雪景色だ_____。 一行の皆が、容赦なく顔に打ち付けてくる雪のせいで半目になりながらトナカイのように鼻を真っ赤にしている。 それでも、エルフはニンゲンよりも寒さに強いためかサンとミストは誠や優太よりも薄着なのだが。 吹きすさぶ風の音が、得たいの知れない生き物のようで『恐ろしい』と誠達一行の誰しもが思っていた。 それでも、この白銀の雪景色に囲まれた《宿屋の外》へと出られたことは誠達一行にとって幸運であり、なおかつ元のミラージュへも戻れるチャンスともいえるのだ。 (あんな卑怯なヤツ、アズキによってこの世界で永遠に閉じ込められるよりも……この寒さに耐えることのほうが、まだマシだ――それに、ヤツは今独りも同然だ……キナコとマッチャの力を吸収してパワーアップしたとはいえ__本物の仲間がいる俺らは絶対に屈しない……っ……) 【金野 力】がダイイチキュウから連れてきたサラリーマン風の男やオタク風の男__その他大勢の人間達も誠が宿屋の扉を開けた途端に、ほどんどが眠りについたかのように順々に気絶していった。 この場に残ったのは、ミストが張っていた結界の中にいた学生風の男達三人だけ____。 誠達一行は、その三人の内の一人__叶多という学ランを着た人間の言葉をフッと思い出し、それが妙に気にかかったため宿屋の扉を開けた後で、急いである場所に向かって駆けていた。 それというのも___、 『声が……どこかから聞こえる……可愛い、可愛い――ボクの……ット____』 誠が宿屋の扉を開けて少ししてから、ふいにフラフラと立ち上がり結界を出た叶多という学生が覚束ない足取りで一足先に吹雪で荒れる宿屋の外へと勢いよく飛び出して行ったからだ。 誠達には、いや___それどころか彼の近くにいた二人の学生風の男達にも、そのような声など聞こえてこない。いくら耳を済ませてみても、辺りから聞こえてるのは、荒れ狂う冬風の咆哮だけだ。 仲間(おそらく同年代だろう)達の制止の声も聞き入れず、何かに囚われているように無我夢中で彼はごう、ごうと唸りをあげる吹雪の中へと自ら飛び込んでいってしまったのだ。 しかし、【生まれ変わったアズキ】が繰り出してきた【ドール達】との戦いを終えて、落ち着きを取り戻したとはいえ未だに意識を取り戻さない引田がいる____。 そのため、青木に引田のことを頼んだ上で誠は他の仲間達と共に吹雪で荒れ狂う《宿屋の外》へと駆けて行く。 「ねえ……ダイイチキュウのニンゲンの彼は……いったい、どうしちゃったの!?ミストには全然、分からないんだけど――」 「おそらくだが、ヤツは何かを失くして、それを探しているのだろうな……あの態度から察するに――よほど大切な存在なのだろう……出来うる限り、協力してやりたいが……」 ミストの問いかけに続く、サンの言葉を聞いて誠も優太もほぼ同じタイミングで驚きの表情を浮かべて互いに顔を合わせてしまった。 今までのサンであれば、叶多という学生の心情を心配するよりも先に「アズキを倒すために必要な手掛かりを探すことの方を急がねばならない」と言いそうだったからだ。 「ねえ、誠……サンってさ__最初に会った頃よりも……何ていうか良い方に変わったよね……引田に出会ったからかな?」 ふと、どことなくしんみりとしているサンに聞こえないようにコソッと誠へと優太が呟く。優太の鼻の頭も真っ赤になっていて、その大きな目からは冷たい風に当たるだけで反射的に涙が溢れそうになっている。 くしゅんっ____と優太はくしゃみをしてしまった。 「ああ、そうだな……サンが変わったのは明らかに引田との間にある――愛、なのだろうな。それを引き裂いている【アズキ】を倒すためにも……まずは、あの叶多という奴が何を探しているのか探る必要がある。優太、何か思い当たることはないか?」 くしゃみをしてしまった優太にハンカチを差し出してから、誠は先程から思い出しそうで思い出せないモヤモヤとした疑問で頭の中が埋め尽くされてしまっていたため、隣で支えてくれている愛する優太へと問いかけるのだった。

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