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誠とスライム二匹の反撃!!②
だからこそ、指先に何か固い物が当たっても誠はピクリとも動かなかった。
というよりも、更に正確に言えば――どう頑張っても、指先ひとつですら動かせないのだ。
しかし、【トカゲのアス・イムリク】の尻尾攻撃が直撃したせいで倒れてしまった誠のすぐ側にいたライムスには何が起こったのかちゃんと見えていた。
己と混じり合っていた、もう一匹の黒いスライムが、力尽きたかのように見えた誠の方へと飛び跳ねていき、仰向けとなって倒れた誠の手のひらに乗っかったのだ。
まるで、誠に対して「早く起きろ」と言っているかのようにライムスの目に映る。しかしながら、それに対して【トカゲのアス・イムリク】の攻撃は衰えることはない。
【よ し ……やっ と この うるさい バグ 因子 ヲ 黙 ら せた か__ __ 次 ハ そこ に いる 下等 な ヤツ ら の 番 …… ……】
誠は完全に己の手中に堕ちたと思い込んでいる【アズキ】は、邪魔者でしかない誠が雪上に倒れたことに満足そうな笑みを浮かべる。
それと、同時に凄まじい不安に襲われた。
【アズキ】の二つの目が、己ともう一匹のスライムではなく今にも壊れそうな結界で何とか踏ん張っているミストと三人のダイイチキュウ人を見据えていた。
既に、主人ともいえる引田は宿屋の中で倒れ____それだけでなく、仲間のサンや優太も倒れてしまっている。アオキというダイイチキュウ人は倒れてはいないが、【アズキ】がこの白銀世界を完全な状態で支配してしまえば彼もまた倒れてしまうだろう。
それに、今――【アズキ】は結界の中にいるミストと三人のダイイチキュウ人に標的を定めた。
ミストとダイイチキュウ人が【アズキ】の手中によって堕とされ倒れることとなったら、ライムスは独りになってしまい、更に世界の主となった【アズキ】に何をされるかさえ分からない。
そんなことは、考えたくもなかった。
しかし、ライムスがどんなに誠が再び起き上がってくれるように願っても、今の誠はピクリとも動かない。
その間にも、無慈悲なる【アズキ】の命令によって【トカゲのアス・イムリク】は遠くからとはいえミストが張った結界に丸い氷塊を勢いよく放つ。
「お願いしマス……マコトさん__ライムスを……独りにしないでくだサイ……ッ……」
本来ならばニンゲンのように流せないはずのライムスの体から涙が流れ、誠の顔を濡らす。
その直後、誠の手がピクッと動いた。ただ単に指が動いた訳ではなく、傷だらけのせいで、ゆっくりとだが確実に誠は体を起こして己の目的を完遂しようと立ち上がる。
両足は生まれたての小鹿のように、ガクガクと震えていて明らかに不安定だ。しかし、それでも誠な前へと一歩一歩進もうと現在の不利な状況へと抗おうとする。
すると、それを見ていたせいかは定かではないが、先程倒れた誠の手に乗っかった黒いスライムも新たに行動を起こす。
今、誠は【アズキを退治する】【大切な仲間を救い出す】【何の関係もなく巻き込まれたダイイチキュウ人たちとペットのトカゲを元の世界へ返す】といったを目標を心の中に抱いている。
その目標は、まるで勢いよく燃える蝋燭の炎のように誠の心の中に留まっているのだ。
そして、黒いスライム再び立ち上がった彼の後ろから、再び立ち上がった誠を感心して励しているかのように軽快なステップで飛び跳ねながら追っていくのだった。
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