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† 誠は二匹のスライムへ 「作戦どおりに!! 」と白銀世界で叫ぶ †
*
「____作戦どおりに!!」
誠は、ライムスと黒いスライムへ叫んだ。
張り裂けんばかりに叫ぶ声はすぐに荒々しい吹雪で掻き消されてしまう。
しかしながら、誠はすぐ後ろから駆けよってくるスライムたちに己の声が届いていると信じていた。
今まで共に旅をしてきて、幾多のピンチを乗り越えてきた仲間のライムスならばともかく、この白銀世界で出会ったばかりの黒いスライムに対して何故そのような信頼じみた感情を抱いたかは分からない。けれど、そんな事を気にしている場合ではないと思い直した誠は優太が転んだ場所へひたすら駆けて行く。
誠の目論見通り、【トカゲのアス・イムリク】は四肢をせわしなく動かしながら、大地を震わせつつ背後から誠を追い掛けてきた。
【トカゲのアス・イムリク】は素早い。そのため、追い付かれそうになるが、スライム二匹は身が軽いため、氷柱攻撃も尻尾の攻撃さえもかわしていく。それでも、ギリギリなのだが。
(よし__確か、このへんに……優太が転んだ場所があるはず……っ……おっと、自分まで転ばないように注意しないと……)
この辺りの雪の真下には、水があり___それが海のように広がっている。
ザクッ――ザク、ギュッと雪を踏みしめる度に、優太やシリカのように滑って転んでしまうのではないかとヒヤヒヤする。
しかしながら、誠が頭の中に思い描いている作戦は今のところ着々と実行できている。
【トカゲのアス・イムリク】に乗っかったまま満足そうな笑みを浮かべている【アズキ】は何の疑問も抱いてはいない。
何故、誠が優太が転んでしまった――つまり雪に埋まっている氷が脆くなりかけている場所に誘導しているのか絶対に気付いていないという確固たる自信が誠にはあったのだ。
だからこそ、あとは【トカゲのアス・イムリク】が更に怒りを抱かせ、とある行動を起こすために誘い出すのが必要なのだ。少しばかり考えた誠は、【トカゲのアス・イムリク】を更に怒らせ、尚且つ――とある行動を引き起こさせるために【アズキ】に向けて、ある言葉を言い放つ。
「アズキ、お前はニンゲンにはなれない……俺らを追い詰めた所で決してニンゲンにはなれない……っ__仲間を思いやれず逆に利用しかしないお前がニンゲンになるなんて絶対に不可能だ!!」
【何 だっ て __ __ この 、 、出来 損な い 、の、、、バグ 因子 め っ …… …… おマエ ら は ずっ と 、、ず っ と この 世界 で 俺 が ニンゲン
に なった 後 、、いた ぶ られ る んだ っ …… ……
さっさと、 ふみ 潰せ っ…… ……アス・イムリク ! !】
激昂した【アズキ】が、誠の思惑通りに【トカゲのアス・イムリク】を繋いでる血の首輪をグイッと強く引き寄せた。
そのせいで、【トカゲのアス・イムリク】は誠が思った通りの行動を起こす。あまりの息苦しさに顔を歪ませ、大きく開いた口から苦悶の芳香を響かせながらその場で地団駄を踏んだのだ。
真下の氷は脆くなっていき、ビシビシと音をたてながらひび割れていく。
その様子を見て、誠は腹をくくる____。
それは、どうしてか。それもまた、誠の頭の中にある【幼い頃の記憶】が関係しているのだ。生前の父と、幾度となく繰り返し訓練しても幼い頃の誠はどうしても魔法を習得できなかった。
ミラージュの王族に関わりのある者であれば、大抵は習得できると言われていた【低級爆発魔法】___。
ミストのように、杖を使う高度な魔法は専門として魔法学校なり、有名な魔法使いから学ばなければならないが【低級爆発魔法】であれば杖を使うことなく手のひらから直接繰り出すことが出来るため習得にはさほど苦労しない筈なのに、どうしても誠は習得できなかった。
『父様、どうして俺は……こんな簡単な魔法ですら発動させられないのですか?』
『それは、お前の魔力が強すぎて、己だけでなく周りの者にまで危害を加える可能性があるせいだ……いずれ、その力をコントロールできるようになった時に使いなさい……仲間を守る時のために、とっておくんだ』
かつて、泣き腫らしてグシャグシャになった自分に向けられた時の父の穏やかな顔と力のこもった教訓の言葉を思い出す。
左の手のひらを広げ、『§‡δ♭#&*Θ』と魔法詠唱するとそれを閉じ込めるかのようにギュッと一度固く握りしめる。
そして_____、
野球選手が思いきりボールを投げるようなポーズをしながら、握り拳を【トカゲのアス・イムリク】が地団駄を踏んでいる真下の雪に埋もれた氷へと向かって振りかぶった。
「よし、今だ……っ___ライムス!!父様!!」
低級の爆発魔法とはいえ、脆くなっていた氷が割れて【トカゲのアス・イムリク】と【アズキ】もろとも体のバランスを崩していく。
その状況に、とどめをさすべく誠はライムスと黒いスライムへと張り裂けんばかりに叫んだ。
誠が練り上げた作戦どおりに、黒いスライムは【アズキ】の顔へ覆い被さってヤツの視界を奪う。
そして、ライムスはというと真下の氷が割れて体のバランスを崩しかけた途端に元の小さな姿へと戻った生き物を救うべく既に水中に落ちそうになってしまっていた【トカゲ】の体に覆い被さり最悪の事態を裂けるために行動した。
【ダイイチキュウから連れ去られ利用されてしまっていたトカゲ】を救う存在はいても、【ダイイチキュウから人々を連れ去り好き勝手に仲間まで操り利用していた本当の意味でのバグ因子のアズキ】に救いの手を差し伸べる者など存在しない。
ヤツはこれから、今までの報いを受けるのだ。
氷の下に広がる、冷たい針のような水中の中で____。
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