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バグ因子の【アズキ】と狂った白銀世界の終わりを一行は目の当たりにする①

* 【 ギャ ァ ァァ ッ …… この 、、 この、、、よくも …… よくもっ ……この 俺 を 、、 トラップ に かけ た な っ ……】 脆くなりかけていた氷の真下に広がる水中に【アズキ】は真っ逆さまに落ちた。 しかし、一気に不利な状況に陥ったと理解していても、負け犬の遠吠えのように誠たちへと毒を吐き続ける。 「…………」 誠はそんな惨めともいえる【アズキ】に対して何も言わない_____。 今の状況に陥った【アズキ】に対して何かを言ったところで、時間が無駄になるのも分かっていたし、それより何よりも他に為すべきことがあったからだ。 冷たい水中に落ちてしまっても誰からも救いの手を差し伸べられない【アズキ】にかまうよりも、ライムスによって救いの手を差し伸べられた上で水中に落ちた【トカゲ】を救うことの方が重要だからだ。 それでも、その前に哀れなるバグ因子【アズキ】の最後を少しだけでも目に焼き付けようとチラリと横目でヤツが落ちた場所を見つめた。 【 …… …… ッッ …… 、、、____】 もう、負け犬の遠吠えどころか呻き声さえ聞こえない。ゲームキャラクターであり、尚且つ《無関係な者を利用して己の欲に溺れた》バグ因子でもある【アズキ】は稲妻のように青白い光を火花の如くバチバチと勢いよく放ちながら、元々の姿である【真っ黒な姿】へと見る見るうちに戻っていく。それだけではなく、まるでテレビが砂嵐の状態となった時のようにかつては【アズキ】を保っていた体全体にノイズが走り、それと同時に動きがブレていく。 そして、最終的には幾多もの黒い真四角のピースとなってパズルのように崩れ落ちながら誠達一行を苦しめた【アズキだったもの】は深い深い水の底へと徐々にとはいえ確実に沈んでいく。 かろうじて残った、かつてはニンゲンのような腕だった真っ黒な部分を、救いを求めるかのように虚空へとまっすぐ伸ばした所で仲間のいないヤツの体を引き上げる存在などあるわけもなく、ただひとり__【アズキ】は暗き氷河の底へとただ独りで沈んでいったのだ。 こうして、誠はバグ因子の【アズキ】を退治することに成功した。 『あーあ、おにいちゃんのつくったキャラクター……消えちゃったね__もう、いっしょに遊べない…………でも、それでいいんだよね――おにいちゃんは、雪菜以上に大事な、おにいちゃんの仲間と遊んであげて……』 ふと、未だに降りやまない吹雪の音に混じり懐かしい【妹】の声が聞こえたような気がした。 しかし、 誠はすぐに首を横に降って感傷に浸る気分を吹き飛ばすと《これからやらなければいけないこと》を解決するために、ある行動を起こす。 まずは、身近にいる仲間の安否確認をしなくてはならない。 一番最初に誰の元へ駆けつければいいか、頭の中に瞬時に判断する。 パッとすぐに思い浮かべたのは【三人のダイイチキュウ人たち】だったが、彼らのことはミストに任せればいいと判断した。 とすると、今一番に安否確認すべきなのは優太だという考えに思い当たる。 もちろん、サンのことも心配だったけれどここは彼が倒れている場所からは、かなり距離が離れてしまっている。 そのため、まずは比較的に近くにいる優太を助けるべきだと判断した誠は今までの攻防の末に疲れきってしまった棒のような足を引きずるようにして何とか優太が倒れていた場所まで向かっていかなくてはいけないと固く決意する。 「マコトさんっ……マコトさん……この青く白いト、ト、ト、トカゲ……はライムスが助けマシた!!さあ、次ハ……ユウタさんとサンさん……それにご主人様の番なのデス!!」 青い体内の中に、白いトカゲを閉じ込めるようにして救い出したライムスが氷河の中からピョンッと魚のように飛び跳ねたかと思うと声高らかに誠の方へと飛びかかってきた。 それに引き続き、黒いスライムも同じように誠へと飛びかかってきたため二匹を引き連れて誠は優太が倒れていた場所へと歩き始めるのだった。 世界の主ともいえる存在だった【アズキ】を倒したというのに、未だ荒れ狂うような吹雪はまだ止む気配はない。

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