601 / 713

バグ因子の【アズキ】と狂った白銀世界の終わりを一行は目の当たりにする②

* 「どうしよう……引田、目を覚ましそうにないよ……さっきからミストが回復魔法をかけたりしてくれてるのに……っ____」 あれから、誠が主となって必死で僕を救ってくれた後に、共に倒れていたサンや【三人のダイイチキュウ人】を守りきったミストの元へと行くと安否確認と簡潔な手当てを施してから未だに安否がどうなったのか分からない引田と青木がいる《宿屋》へと向かって歩き続けた。 白銀世界から移動してきた僕らは、再び宿屋の中に入る。しかしながら、宿屋の中はガランとしていて他に人がいる気配がない。この世界に来たばかりの時にいた看板娘の姿もなく、とても静かだ。 【アズキ】によって強引に《冒険者》に設定され姿までもが変えられてしまっていた何人もの【ダイイチキュウ人たち】は、いったい何処に消えてしまったのだろうか。 それも気になることだけれども、僕にはもっと気になることがあった。 宿屋の中に戻ってきた瞬間、真っ青になって鬼気迫る青木が僕らを出迎えた。どうやら、今まで必死に見守っていた引田の様子がおかしいらしく、しかも未だに目を覚ます気配がないらしい。 青木に言われた通り、引田の顔に手を当ててみる。まるで、氷のように冷たくなっていて無意識の内に小刻みに痙攣しているのも分かる。 「ち、ちょっと待って……ミストが何とか魔法で回復させるから……っ____絶対にヒキタを死なせたりなんか……しないから……っ……」 と、いったん魔力を補充するために休憩していたミストが涙を溢れさせて嗚咽しながら、再び杖を手にとり、未だ目覚めることない引田を何とか救うべく震える声で魔法詠唱をしかけた時のことだった。 「私に任せろ。むろん、ミスト……お前の意見に同感だ。ヒキタを死なせなど……しない。必ず、私が救い出してみせる」 事の成り行きを見守っていたサンが倒れている引田にすがるミストの元へと歩み寄り、その震える肩をソッと撫でながら真剣な顔つきで言ったのだ。 いつもは冷静なサンが、あまりの鬼気迫る声色で言ってきたため、周りにいた優太や誠だけでなく正にこれから回復魔法の詠唱をしようとしていたミストさえも倒れたままの引田から離れたのだ。 僕達一行の間に緊張感が走り、それと同時に暫しの間――ただでさえ、しーんとしていた宿屋内が更に静寂に包まれる。 すると、少ししてからサンは何を思ったか皆の目が集中する最中だというのに服を脱ぎ始めた。むろん、全部が全部という訳ではないけれども突然の予想外なサンの行動を目の当たりにして、優太や誠――それにミストはもちろんのこと、黙って事の成り行きをハラハラしながらも見守っていた青木や【三人のダイイチキュウ人】までもが呆気にとられながら驚愕の視線をサンへと向けていた。 けれど、サンを眺めているうちに気付いた。 サンはただ闇雲に服を脱いだ訳ではなく、確実に何か強い考えを持って服を脱ぎ始めたのだと。そう思った理由は、サンの瞳に強く鋭い光が宿っているように見えたからだ。 「____ВЗЖИ……жсрйй……хспфьы……」 彼は小さい声色ながらもミストのように杖など使わずに直接的に魔法詠唱をしているのだ ――と気付いた時には、すでにサンの浅黒い肌に奇妙な赤い紋様が浮かび上がっていた。 そして、その赤い紋様がカッと眩しく光った瞬間、サンの体から桃色と黒が混じった幻想的ともいえる炎が出現した。 その直後、あろうことかサンは無言でぐったりと横たわったままの引田の体を愛おしげに抱き締めるのだった。

ともだちにシェアしよう!