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三人のダイイチキュウ人との別れと研究室での再会②
その時だった____。
つい先程までは、さして気にしていなかったものの、ふと自分が右手に何か硬い物を握っていることに改めて気付いて、それが何故だか妙に気になったため視線を落としてみた。
ダイイチキュウに存在する真珠によく似た白い玉で、然程大きくはない。
(何で……こんなものを__僕は握り締めているんだろう……ドクターCにも聞いてみた方がいいかな……)
と、疑問を抱きながらドクターCへと目線をやった。そして、彼に近付こうとしたが、ふとその考えを思い直してピタリと足を止めた。
そんな些細なことを彼に聞いたところで、ドクターCに、またしても迷惑をかけてしまうのではないかと思ったからだ。
ただでさえ、先程三人のダイイチキュウ人たちを《戸宇京》へと戻れるように協力を頼んだばかりだったため心苦しく思った僕は《真珠によく似た白い玉》の疑問は心の片隅に置いておいて再び研究室内の見物に集中したのだった。
ドクターCはそんな僕の方には目もくれずに、パソコンによく似た機械とにらめっこしている。
*
ドクターCの研究室は、とても面白い。
まるで、ダイイチキュウの博物館のように様々な《模型なる球体》がガラスケースの中に閉じ込められているからだ。
桃色、黄色といった美しい輝きを放つ球体には、たとえば桃色であれば【一番目の麗らかな花世界】、黄色であれば【二番目の眩しい花世界】といった具合にそれぞれ筆字の題がつけられて飾られている。
周りを見渡してみると、そんな彩りの球体がその二つ以外にも沢山飾られているのだ。
先程まで、白一色の白銀世界にいたせいか様々な彩りの球体を見るのが妙に面白くて夢中になりながら見物していた僕だったけれど、ふとある球体が閉じ込められているガラスケースの前で足を止める。
灰色に曇った球体が閉じ込められている四角いガラスケースに僕の目は釘付けとなった。
【玄 亀 讐虎鐔 � 白 壺 鐔э 中 秀龍 鐔 殿 � 姫 蛭�� 】
まるで、文字化でもしているかのような意味不明な文字の羅列が球体の側に題として付けられていて、他の様々な《模型なる球体》と比べても明らかに奇怪な異質さが際立っている。
更に、他の《模型なる球体》とは違ってその異質さを露にしている球体は曇っていて色がないというのも、僕の目を引いた理由なのかもしれないなどと思いながらも背後から誰かに服を引っ張られたためそちらの方へと振り返った。
そこには、不思議そうな顔をしながら僕の服を引っ張るドクターCの助手の女の子マ・アが立っていたのだ。
ミン魚の姿から人型へと変化している、そのおかっぱ頭の女の子は何だか照れくさそうにモジモジしつつ、僕の服の裾を引っ張った。
そして、とある場所を指差しながらこう言うのだった。
「ねえねえ、おにいさん、おにいさん……あそこに倒れているのが誰か分かるであるあるですか?われ、知らないないです__ちょっと、こっちに一緒に来てくれるであるあるですか?」
確かに、彼女が指差した方向には誰かが倒れている。
けれども、薄暗いため近寄ってみなくては誰かということまでは分からなそうだ。
くい、くい――と裾を引っ張り続けてくるマ・アの愛らしさに顔を綻ばせながら、僕は彼女と共に歩み寄って行くのだった。
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