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ようこそ、【玄 亀 讐虎鐔 � 白 壺 鐔э 中 秀龍 鐔 殿 � 姫 蛭�� 】へ ②
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「大丈夫……っ____みんな……っ……!?」
ただごとではなさそうな悲鳴をあげていた割に、誠達のいた場所まで戻ってきた僕が目の当たりにした光景は意外にも深刻そうなものではなく、逆にキョトンとした顔をしている彼らが驚いたかのように目を丸くしながら此方を訝しげに見つめてきた。
「ど、どうしたの……っ……優太くん?」
「お前こそ、何をそんな慌てふためいた顔をしている……そもそも、大丈夫かというのは……どういうわけなんだ!?」
「優太…………お前__今まで何処に行ってたんだ?心配してたんだぞ?」
「………………」
そこには、悲鳴などあげず何もなかったといわんばかりの仲間達の姿があった。
ただ、その中でミストだけは慌てふためきながら駆け寄ってきた僕に目を向ける訳でもなくジッと心ここにあらずといった様子で真下を向いて床を凝視している。
その光景に僅かながら違和感を抱いたものの、とりあえずは皆が無事で良かったとホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、ふと先程までとは違うある異変に気付いてしまった僕はキョロキョロと辺りを見渡した。
(ドクターCが……いない____それに……)
「ねえ、ライムス達と……ドクターCは何処に行ったの?」
気になった僕はシリカの眠っている部屋へ移動する前は、この研究室にいた筈のライムス達の居場所について誠へと尋ねた。そして、その際に彼の顔――正確には口元らへんに目線を向けたのだけれど、あることに気付いた。
「……っ____!?」
誠の口元が、妙にモゴモゴと動いている。
食事の時間というわけでもないし、ましてや飴やガムといったダイイチキュウで馴染みのあるようなお菓子などを持っているわけでもなかったせいで違和感を覚えた。
そのため、目の前にいる誠達に不自然に思われないように慎重になりながら他の仲間達の口元を見つめてみた。
すると、サンも引田も誠と同様に口元をモゴモゴと動かしている。
更に、若干俯きがちのミストに至っては口元をモゴモゴさせるだけではなく、その僅かな隙間から水色の粘液らしき粘り気のあるものをこぼしていた。
「み、みんな……っ__な、何を食べ……て……」
と、僕が真っ青になりながら体を後退させつつ尋ねるや否や口元を二ィッと不気味に歪め黒や水色の粘液を口元の隙間から溢れさせた仲間達が此方へと目線を向けた。
これは、異常事態だ――この目の前にいるのは本当の仲間じゃないと頭の中で警報を発した僕は何とか身を翻してその場から逃げようと足を動かそうとした。
今更、気付いたがシリカのいる部屋に移動する前よりも視界が靄がかっている。
僕が気付かぬ内に辺りの景色がまるで煙に包まれたかのようにハッキリせ
そのため、膝を擦りむいてしまったせいでズキンズキンと脈打ちながら痛む足を何とか動かして立ち上がる。
もたれかかるように壁づたいに、壺を抱えながら眠るシリカがいる部屋へと向かって恐怖と痛みに震える足を動かしながら歩いて行く。
何者かの不気味な気配は、消えることはない。
それどころか____どんどんと、此方へと近寄ってきているのだ。
明らかに、姿見せぬ謎の気配たちは怯えを隠せない僕を追い掛けてきている。
*
「ドクターC、それに……マ・アちゃんも……っ__無事でよかった。何だかあっちの部屋の皆の様子が変で____」
慌ててシリカが眠っているであろう部屋へ僕が入ると、両腕を腰に回して組みながら此方へと背を向けて立つ白衣のドクターCと、マ・アの背負う黒いランドセルが見えたため、取り敢えず二人は無事だと判断した僕は彼らの方へと駆け寄った。
「ドクターC、マ・アちゃん……っ……!?」
先程の誠達の異様な態度とは違いはあれど、彼らの様も奇妙といえば奇妙だ。どんなに話しかけても、返事さえせず――それどころか目さえも此方に向けずに心ここにあらずといった感じで目の前の暗闇を真っ直ぐに見つめている。
声をかけても、ひんやりとして冷たい体を揺さぶっても何の反応も示さない____。
それは、さながら我ら生物の末路に訪れる【死】のようだ。
しかし、ここで僕はあることに気付いた。
《ドクターC》も《マ・ア》もダイイチキュウにて一度【死】を経験している。それに、つい先程までは元気に話しをしていた二人がそのような状態に陥るのは変だと思った僕は取り敢えずピクリとも動かない二人を置いて、眠るシリカの元へと行こうと足を踏み出した。
その時だ____。
これから何か悪いことがあるといわんばかりに、暗闇から「ジャーン、ボワォ~ン……」と何処かで聞いたことのある特徴的な音が聞こえてきた。
この音は銅鑼の音だ――と、僕が察したのとほぼ同じタイミングで、さっきまでは魂が抜けた生物の如くピクリとも動かなかったドクターCとマ・アに異変が起きるのだった。
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