＊ 「ん……っ＿＿＿＿こ、ここは……」 一人で白く霧がかった場所にてうつ伏せのまま目を覚ます僕は恐る恐る身を起こすと、辺りの光景を見渡した。 見たところ、僕以外に辺りには誰もいなさそうだ。 空には曇天が広がっていて、しとしとと冷たい雨粒が降り注ぐ。 不思議なことに、つい先程まで狂おしい程に襲われていた【喉の灼熱感】も【満たせども満たせども解消しなかった空腹感】も、まるで嘘だったかのように消え失せていた。 (あの……変な虎の化け物も＿＿＿＿様子が変だった……誠達もいない……それに、虎の化け物のすぐ近くに跪いてて緑色の胴体に床につくくらいに伸びた金の長い舌を真下に垂らしてた……ゴブリンみたいな変な化け物も……っ……) と、意識を手放してしまう前に目にした異様な光景を思い出したせいで、僕はブルッと身震いをしてしまう。 白い煙に四方八方を包まれていたとはいえ、不気味な光景は一度意識を手放してしまった今でも脳裏に焼き付いている。 (と、とにかく……っ……あの化け物たちも今はいないみたいだし――此処が何処かなんて分からないけれど……皆を探さなくちゃ……めそめそと泣いている場合じゃない……っ……) 冷たい雨粒に打たれたせいで確かに頬が濡れてしまっていたものの、それは降り注ぐ雨のせいだけじゃなかった。 心強い仲間と離ればなれになってしまった不安から、ついつい涙が溢れてしまっているせいでもあったのだけれども、だからといって何時までもこの得たいの知れない場所に佇んだまま泣いてばかりもいられないと悟った僕は不安な心を何とか払拭させながら前へと歩き出す。 濃い霧に包まれているせいで、自分がまるで夢の中にさ迷っているのではないかという錯覚さえ抱いてしまう。 ﾋﾟﾁｬ、ﾋﾟﾁｬ………ｯ……… ﾁﾘ＿＿＿＿ﾁﾘﾝｯ…… 雨に濡れて水溜まりが出来ている石の道を歩き続ける僕の足音の中に、ふいに何処からか聞いたことのある小さな音が聞こえてきた。 雨の降る音と、僕の足音に混じって鈴の音が聞こえてくるのだ。 しかしながら、辺り一面を濃い霧が邪魔しているせいで明確には何処から聞こえてきているかは分からない。 とりあえず、僕は一度足を止めてみた。 すると、それに合わせるかのように絶妙なタイミングで鈴の音も止まる。 その行為を何度か繰り返してみて――僕は、ようやく鈴の音が何処から聞こえてきているのか理解した。 真後ろから、まるで影の如く鈴の音が響いて僕の耳に届いているのだ。 僕の足音に合わせて、遊んでいるかのように後ろの鈴の音も響いたり止まったりしている。何という、気まぐれな存在なのか。 「だ、誰……どうして……僕の後ろにくっついてきているの？」 恐怖と不安が入り雑じった震える声で、後ろを振り向きもせずに謎の存在へと問いかけた僕は答えといわんばかりの鳴き声を耳にして、よつやくその存在を知ることとなる。 「ニャ～……ミャァァ……」 甘えているかのように鳴き声を発するその動物に懐かしさを感じた僕はホッと安堵しながら満面の笑みを浮かべつつ後ろを振り向くのだった。 僕はダイイチキュウにいた頃から、犬よりも猫が大好きだったから＿＿＿。