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目を覚ますは雨降りしきる宮殿前②
僕の後ろに影のように存在していたのは、白い毛並みが立派な小猫____。
雨粒が降り注ぐのが気になるせいか、頭を横に振ったり身をくねらせていたりするせいで、その度に首に巻き付いている赤紐の鈴が揺れてチリ、チリと鳴っている。
「ねえ…………子猫ちゃん____僕は、これから……何処に行けばいいのかな?」
雨に濡れてしまった子猫の体の抱き上げて、自分の胸元に引き寄せると誰ともなしに、そう呟いてしまう。
それは、もちろん大事な仲間達と離ればなれになり孤独となってしまった不安に襲われたからだ。
「ミャァ……ナァァー……」
しかしながら、だからといってフワフワの白い毛並みの子猫が「こっちに行けばいいよ」と人語を話して明確に答えてくれる訳でもない。
いくら仲間達と離ればなれになってしまった不安に襲われているからとはいえ、何をしているんだろうと思い直した僕はとりあえず子猫を胸に抱えたまま、進もうと思っていた方向へと向き直してから前方へと再び歩み始めた。
煙のように白い霧に四方八方を囲まれている何とも言い様のない恐怖と、仲間達と離ればなれになってしまった心細さに襲われたせいで、僕の心はまるで硝子みたいに脆く崩れ去ってしまうのではないかと思うくらいにドクドクと鼓動していた。
それに、辺りからは子猫の鈴の音と僕の足音しか聞こえてこないのも僕の不安を煽る。
先程、ドクターCの研究所で変な虎の化け物やら舌が金色のゴブリンみたいな化け物たちの不気味な笑い声を聞いた時にも不安を煽られたけれども、静寂に支配されている今もそれとは別の不気味さを感じてしまい、自然と足取りがゆっくりになる。
足は、情けないことにガクガクと震えてしまっていた。
「あ……っ____ど、どうしたの……っ……!?」
ふと、唐突に子猫が僕の両腕の中から、するりと抜けて軽快な足取りで駆け出していってしまう。
(これ以上、独りにはなりたくない……誠、それに皆とも……離ればなれになったままなのに……っ……)
無我夢中で、己の両腕からするりと抜け出して駆け出してしまった子猫の跡を追い掛けていく。
つい先程までは、白い子猫が僕の後から影のようについてきていた。
しかし、今度は逆の立場になるだなんて夢にも思っていなかった僕は震える足を何とか動かして子猫を追い掛け続ける。
「も、もう……っ____急にいなくなられると……困るよ……小さな頃のわんぱくな想太じゃあるまいし……っ……」
急に走ったせいで、はあ、はあと息を荒くしてようやく足を止めた子猫を再び己の両腕へと抱え上げると、その直後に何処からか人の気配を感じた。
しかも、その謎の気配は一つだけではないように思えたのだ。
左右から、複数の――少なくとも二人はいるであろう気配を感じたのだ。
両腕に抱き上げている可愛らしい子猫のものや
、自分に敵意を持たない無害な者達(種族はどうであれ)のものであるならば問題はないのだ。
しかしながら、先程のドクターCの研究所で目にした【虎の化け物や緑の体に金の舌のある化け物】といった得たいの知れない存在や、明らかに自分達に対して敵意のある存在のものならば仲間達と離ればなれになっている今の自分にとって大いに不利な状況となってしまう。
「だ、誰……っ__き、君達……は……そこにいて何をしているの……っ……」
得たいの知れないナニかから心臓を鷲掴みにされているような感覚を抱きながらも、姿見せぬ正体不明の気配に向かって問いかける僕なのだった。
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