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ようこそ、壺中殿の内部へ②
(他に入り口があるかもしれない……少し、探索してみよう____)
僕は、あまり時間をかけないように、ササッと入り口の黄金扉の周辺を取り囲む高い城壁を観察してみたものの、特に隠し扉があったり他に宮殿内へと入れそうな入り口がある訳でもなくガックリと肩を落とした。
かといって、階段下へ戻る訳にはいかない____。
いや、それをしようにも出来ない状況に何時の間にか陥っていたのだ。
「な……何、これ……っ____ミスト……それに……他のみんなも……っ___何で……こんなことに……っ……」
ふと、階段下のどこかから視線を感じた僕は一度探索を止めると、おそるおそる階段下を覗き込んだ。
すると、先程まで子猫や【忌雀之姐姐】、【喜孔之童子】といった存在と出会った時には広場だった場所が、まるで底無し沼のような不気味な場所へと変化していたのだ。雨が降り止まぬせいで、灰色と黒が入り混じる淀んだ色の波がぐるぐると渦を巻いてうねりをあげている。
階段にずらりと並べられた幾つもの奇異な人形たちの姿は、どこにも見えない。
それらがどこにいったのか気になったものの、変わり果ててしまった階段下に再び足を踏み入れる訳にもいかない。
そんな無謀なことをしたところで、僕に残された道は底無し沼のような【世界】と化してしまった広場に飲み込まれて沈みゆくだけだ。
しかしながら、広場にある赤く太い柱は大小不規則な波がうねりをあげて周りのものをなぎ倒していても、びくともしない。
「……って____こんなことをしてる場合じゃない……っ……!!早く、この黄金の扉を開かないと……」
あまりにも異様な光景を目の当たりにして、呆然としていた僕だったが、ふいにこの場にも意思を持った生き物のように激しい波がくるのではないかと懸念して我にかえる。
めったに、出さない独りごとを言ってしまったのは僕の頭がパニックに陥ってしまっているせいだ。
今は、まだ階段下に留まってはいるものの――いつ此方へくるか分からないのだ。
僕は、他に入り口がないかどうか探索するのを諦めて黄金扉の前に再び行くと、開けるためのヒントがないかどうか調べてみることにした。
すると、よくよく見なければ分からない小さな窪みがあることに気付く。そして、ピンときた。
この窪みに入りそうなものを、僕はひとつだけ持っていることを思い出したからだ。前にいた【世界】から脱出する前に持ってきた――正確には、理由はよく分からないけれど持っていなければならないと思って、ずっとズボンの奥深くに入れていたもの――【真珠によく似たもの】を取り出したのだ。
ほとんど頭で考える暇もなく、僕は取り出したそれを窪みへと嵌め込んだ。
ゆっくりと、ゆっくりとゴゴゴという轟音を鳴らしながら、黄金の扉が内側から外側へと開く。
誰かが、黄金扉の内側から此方へと駆けてきたと知った直後――ずっと雨にさらされていたからか、それとも不安と恐怖に苛まれていたせいかは分からないれど、酷い疲れと眠気に襲われてしまい誰かの体にもたれるかかるように前方へ倒れてしまう。
倒れる直前、周囲からはダイイチキュウでも嗅いだことのある、お酒と果物が入り混じったような芳醇な香りがしていたのをフワフワした頭の中で感じながら僕は意識を手放す。
* * *
その後、目を覚ました僕の方へ一番に駆けてきたのは最愛の人であり、ずっと共に歩んできた誠だった。
無言のまま、横たわる僕の体を抱き締めながら心配そうな、はたまた安堵したような表情を浮かべて此方を覗き込んでくる誠を見て――彼と同じような安堵感を抱いた僕は、ようやく笑みを浮かべることができるのだった。
しかし、他の仲間達がすぐには駆け寄ってこないことに気付いた僕は、ついさっきまで安堵していたのも束の間――またしても言い様のない不安を抱きながら、今度は己が目尻の下げつつ心配そうな表情を浮かべて誠の顔を見つめるのだった。
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