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子猫が誘う部屋には何が待つのか①

* ギ、ギィィッ____。 僕らが扉の前にたどり着き、律儀にもジッとその場で座りながら待っている子猫を抱え上げた直後、この宮殿内の入口の扉に着いた時とは違って軋む音を立てつつ自動的に開いた。 赤い木の扉には、表面に赤い筆で書かれた漢字らしき文字がある黄色い札が扉を埋め尽くさんばかりにベタベタと貼られていて妙な懐かしさを感じた。 しかし、今はやはりそんな些細なことは気にしている場合ではないと思い直した僕は不安を払拭させるために誠にぎゅうっと寄り添いながら部屋へと歩いていく。 その部屋の内装は、宮殿の中にあるにしては割と質素なもので、四方は赤い漆塗りの壁で覆われているものの他には豪華絢爛な家具などは見当たらない。 ただ、中央には横を向いている龍の形が施された台座があり、銅から差し出すような形の手の上に何かが乗っかっているのが分かる。 何ともいえぬ緊張感から少し遠慮がちに台座に近寄っていくと、それは僕の腰くらいの大きさで尚且つ銅から横に伸びる手にはダイイチキュウでも見たことのある《遊び道具》が乗っかっているのに気付いて、僕と誠は共に顔を見合せて疑問を感じた。 【双六】とそれに必要な二つの賽子(さいころ)____。 何故、こんな豪華絢爛な宮殿には場違いともいえそうなものが、僕と誠を待ち受けるかのようにそこに存在しているのか見当すらつかない。 「何で、こんなものが……ここにあるんだ?まさか、俺達にこれで遊んでみろ、ということなのか?ミスト達を探すのには、これで遊ぶことが重要だということなのか――優太、お前はどう思う?」 「僕にも、よく分からないよ……あ、これ____見て、誠…………これも、ミスト達を探すのに何か関係があるのかな?」 横向きになっている銀の龍の台座に置かれている双六以外にも、何か他のものはないものか――と心当たりになりそうなものを探索しようと部屋の内部をウロウロし始めた僕の目に今度は立派な屏風が飛び込んできた。 【白と黒の世界】――水墨画の屏風と真下に広がる茶色い木の床にひっそりと置かれた墨汁が注がれてある硯(すずり)、それに太めの筆____。 そして____、 「わ……っ…………何、この動物…………!?」 屏風の影から勢いよく飛び出してきた、ある動物を僕は何処かで目にした覚えがあるものの素早く此方へと飛び込んできて、尚且つ襲いかかろうとしてきたせいで咄嗟に避けることに頭の中がいっぱいになってしまった。 そのため、直ぐには思い出せなかったのだけれど咄嗟に避けたため特に危害をくわえられた訳でもなく、その動物――【ハクビシン】の襲撃から逃れられたのだった。 全身が白い毛皮に覆われ目玉だけが黒い子猫とは対照的に、全身が黒い毛皮に覆われて眉間から鼻筋に向かって真っ直ぐに続く部分のみが白いハクビシンの正反対ともいえる姿を見てみた。 その時になって、何故だか妙に好奇心が刺激された僕は今は竹林や山々が描かれた未完成な水墨画の屏風の真っ正面にいて体を小刻みに震わせ更に口を大きく開けて明らかに此方への警戒心を露にしつつ「キェェェ~……キュェッ……キェェ……」と、まるで鼠によく似た鳴き声をあげている。 「ごめん……キミも――僕らに怯えてたんだよね……」 明らかに此方に対して警戒心を露にしつつ怯えきっているハクビシンを目の当たりにして、ある種の罪悪感ともいえる同情的な感情を抱いた僕は悪い刺激を与えないように充分に注意を払いながらゆっくりと水墨画の屏風の前に歩みを進めていく。 (もしかしたら……子猫と同様にこのハクビシンを手懐けて共に宮殿内を探索することによって……みんなを救う手掛かりになるかも……) そんな思いが、僕の頭の片隅によぎったのだ。 しかしながら、その思いもむなしく――警戒心を解こうとすらしないハクビシンは僕やおそらくは誠さえ予想だにしない行動に出るために屏風前から他の場所へと移動するのだった。

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