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白と黒の世界が迷える僕らを待ち受ける②

そして、その場に残された四人全員が真下の地面に注目する。真っ白な地面に歪んだミミズのような黒文字で【掷骰子(さいころをなげろ)】と浮かび上がったことにほぼ同じタイミングで気付いた。 「もしかしたら、双六が関係してるんじゃないかな?ほら、さっきあった部屋の……。だから、先に賽子を投げる順番を決め____」 【はあ、双六だって……!?おい、小柳……てめえ何、出鱈目を言ってんだよ?そんなもん、俺らは見てねえぜ……なあ、猿田?】 【う、うん……双六とか____ほんと意味分かんないんだけど……。てかさ、いつの間に優太ちゃんは犬飼くんと僕に指図できるようになったわけ?泣くしか能のないドンクサちゃんのくせに……】 「……っ____」 急に目の前に現れていた犬飼と猿田の横暴な言い方を耳にして、ついつい僕は思い出したくもない【ダイイチキュウでからかわれた嫌な記憶】を思い出してしまった。 そのせいで、一瞬だけ言葉を詰まらせてしまう。 すぐ隣にいる誠は顔を真っ赤にして唇を噛み締め怒りを堪えつつも、犬飼と猿田という、かつての苛めっこ達に対して何も反抗しようとはせずに黙ったままだ。 「出鱈目なんかじゃない…………君達こそ、あの怪しげな老人の話は聞いてた?運、終場にたどり着く――それに、まるでコマみたいなこの水墨画を見たら双六だと思う。僕は、もう君達になんか負けないから……どんなに蔑まれても悪口を言われても平気だよ。ビクビクしてるだけじゃ何も変わらないって仲間が教えてくれたんだ。だから、ここから出るためにも君達が《戸宇京》に帰るためにも順番を決めなくちゃ……そうしなきゃ前には進めない」 【はっ…………もう、俺達になんか居場所なんかねえんだよ。戸宇京!?そんな所にゃ、もう帰れねえのさ。俺達は、何者かから理不尽に命を奪われたんだとよ。俺は撲殺、猿田は学校の木の上から落とされたそうだ。そいで、このミラージュとかいう訳の分からねえ場所に連れて来られたんだ。そして、そこで俺らはチャンスを得たのさ。ここで、お前達と会えば再び戸宇京に返してやる――と、とある奴から言われたんだよ……だから、不本意ながら此処でてめえらを地蔵みてえにジッと待っていたのさ】 【あのね、言っとくけどさ……僕が此所に来たのは命を奪った奴に惨たらしく復讐するためであって、犬飼くんみたく、怪しさ満点のあの人から代価として提示された報酬に目がくらんだ訳じゃないから……そこんとこ、勘違いしないでよ?】 などと、暫くの間――したくもない会話を続けていた僕らだったが、やきもきした誠の一言で互いにハッと我にかえると、そもそもの双六のルールに必要な順番決めをするために、じゃんけんをしようとした所で不意にある違和感に気付いてしまう。 【ねえ、それで___?どうやって、優太ちゃんは双六するつもり?ここには、賽子なんて存在してないみたいだけど?あれれ、僕の目が腐っちゃったのかな……ねえ、誠くん――優太ちゃんだけじゃなくて君の目にも二つの賽子なんて見えているわけ?】 「い、いや……悔しいが、お前の言う通り……賽子なんて……俺の目にも見えてはいない」 にこり、と一見すれば穏やかそうでありながら――ある種の恐怖じみた笑みを浮かべながら、今まで気付きすらしなかった言葉を猿田は容赦なく投げかけてくる。 確かに、猿田の言う通りだ____。 周囲には、四方八方を取り囲む白黒の竹林――そして黒々とした山は存在すれど、他には何もない。そもそも動物さえ、いるのかどうか分からない。 もしかしたら、宮殿らしき場所の質素な部屋にあった双六なんて大して関係なかったのかもしれない――と頭に不安がよぎりかけた時、誠が呆気にとられて己の右手の甲に釘付けになっているのが見えた僕は慌てて彼の元へ駆け寄ろうとする。 しかし、やはり体を自分の意思で上手く動かすことは出来ないため「どうしたの、誠……っ__!?」と不安と恐怖をあらわにしつつ尋ねるしかないのだった。 「何だ…………急に俺の手の甲に、変な文字が……っ……」 誠が焦燥感を滲ませた顔で言うなり、同じように自らの意思で動けない僕ら三人はほぼ同時に目を彼の手の甲方へと動かした。 「えっ…………!?」 そして、誠の体に起きた異変に驚きの声をあげる。 《走四个方块 (四マスすすむ) 》____。 先程からずっとそうだったのだが、ダイイチキュウの《戸宇京》では見慣れない文法の赤文字が焦燥感に支配されている誠の手の甲に唐突に現れ、しかもそれだけでなく直後に彼の体は自らの意思に反して勢いよく前方へと四歩進んでいくのだった。 歩いて四歩進んだ――というよりは、ジャンプしつつ四歩進んだといっていいくらいには誠との距離が随分と離れてしまい、ギリギリまでしか彼の姿が確認できなくなってしまう。 そのことに対して不安を抱いたのとほぼ同時に、今度は左端にいる犬飼の手の甲に異変が起きたことに気付いた僕は『次には何が起こるのだろう』という新たな恐怖に怯えることしか出来ないのだった。

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