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賽子が存在しない奇妙な双六が僕らの行く手を阻む②

【ええっと……有、解、毒、薬草……要、不要? おい、猿田……何だよ、これ――どういう意味だ?】 【ち、ちょっと待ってよ……犬飼くんさ、さっき急に現れた巨大蜂に刺されたんだよね……それを踏まえて考えると、どこかに解毒する薬草がある筈だよ。それがいるか、いらないかって……このふざけた双六の主は君に聞いてるんだよ……きっとね】 【そんなもん、要――つまりいるに決まってんだろ。この光っている文字に触れりゃいいのか?あった、あった……この空から降ってきたのが薬草だな……どれ、どれ……うえっ……苦え……っ____おっ、でも腕も元通りになったし痛みも全然無くなったぜ?さすが、ガリ勉野郎の猿田……たまには役にたつじゃねえか】 などという、元クラスメイト達の会話を聞きながらも僕は頭の中でこの奇妙な双六についての考えを必死で張り巡らせていた。 そして、あることに気が付いた。 この双六が奇妙なのは、本来であればコマである自分達が振る賽子が存在しないという点だけではない。 この奇妙な双六には、【○○マス戻る】や【振り出しに戻る】といったコマの他に所々、プレイヤー自身に行動を選択させる、まるでゲームのにあるようなコマがあるということに気付いたのだ。 (もし、そんなコマに止まった場合……慎重に……答えを選ばなきゃ……ゲームの中にはその答え次第で結果が変わるものもあるんだから……) 言い知れぬ不安を抱きながらも、この奇妙なる双六は優太達の意思に反して、どんどんと進んで行く。 ゴールにたどり着く気配は、未だにない____。 * それから、どのくらいの時がたっただろうか。 この【奇妙なる双六の白黒世界】に飛ばされてからは黒々とした山と真っ白な空が見えるばかりで他の《色》が存在しないため、空の色見で時間を図るといったことが出来ない。 ましてや、時計などという便利なものも存在しない。 あれから、ずっと――僕ら四人は為す術なく【賽子の存在しない奇妙な双六】を繰り返し行うしかなかったのだ。 何せ、僕も誠も――それに、いけ好かない犬飼や猿田にでさえ自分自身で体を動かすことすら碌に出来ないのだから____。 【おっ……また、さっきみてえに変な漢字が手の甲に浮かんできたぜ……おい、猿田……これも翻訳しろや――】 【はい、はい……で、今度は何て漢字が書いてあるの?】 【ええっと《金、成……木……先、行手……有____ 泣、子……殺人蜂 、刺 、助 ……要求 。金 、成……木 方 、 貴男…… 行、非行? 》だとよ。ったく、意味分かんねえよ…… こんなん……】 【んーとね……犬飼くんの進む先に金の成る木がある、けれども殺人蜂に刺された子どもが助けを求めて泣いている……金の成る木の方へ行きますか?行きませんか?】 その難しい選択肢にも、犬飼は碌に考えもせずあっという間に答えを出したのが猿田との会話を通じて聞こえてきて、僕は尚更ダイイチキュウでの思い出を掘り返されてしまい思わずため息をついてしまった。 その答えは【泣いている子どもなんて放っておきゃいい……夢にまで見た金の成る木の方が重要なんだよ!!】という、いかにも単純な犬飼が出しそうなものだったのだ。 先のことなど深くは考えない楽天家らしい彼の言葉を聞いて、長年彼とつるんでいる猿田さえ呆れているらしく、それ以上は何も言わずに成り行きを見守っているようだった。 かくして、犬飼は子どもの救いを求める声を無視して金の成る木の真下へと到達する。 その木も当然の如く白黒で、いつまでもこんなつまらない場所にいると目が腐っちまう――などと独り言を呟きつつも、白い枝から札が何十枚も垂れ下がる光景を目の当たりにすると、調子がよく単純で欲望に忠実な彼はその名字の如く尻尾を振る犬のように枝に登り、光る札束を掴み上げ己のものにするのだった。

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