620 / 713

賽子が存在しない奇妙な双六が僕らの行く手を阻む ③

* 谋杀蜜蜂叮咬(さつじんばちに刺される) 【右手臂刺伤(右腕を刺される)】 【后方两个方块(ニマス戻る)】 その後には、 《有、解、毒、薬草……要、不要?》 《金、成……木……先、行手……有____ 泣、子……殺人蜂 、刺 、助 ……要求 。金 、成……木 方 、 貴男…… 行、非行? 》 何という偶然なのだろうか。 あれから何ターンか奇妙な双六を繰り返していくうちに、今度は僕の番で先程、犬飼を悩ませた選択肢のコマと全く同じストーリーが筋立てられていく。 ①殺人蜂に右腕を刺される。 ②解毒薬がいるかどうかを問われて【是(はい)】を選択肢として選ぶ。 ③同じように殺人蜂に右腕を刺された子供が泣いていると言われて【持っている解毒薬で子供を助ける】か【金の成る木がある方角に向かっていくか】と問われる。 この③の問いかけの際に、犬飼はほぼ迷うことなく【金の成る木がある方角に向かっていく】を選び、目の色を変えて見事に大金を手に入れた。 しかしながら、僕にしてみれば――痛みで苦しむ子供の命を見捨ててまで金を手にするのは御免だと思ったため、【持っている解毒薬で子供を助ける】という選択肢を選んだのだ。 もちろん、この奇妙な双六の中にいる白黒の格好をした子供を一人助けたところで「何になるのか」という疑問の気持ちは拭えきれなかったし僕としても痛みに啄まれてゆく己の身がこれからどうなっていくのかという底知れぬ不安はあった。 (この解毒薬をこの子供に渡したら……僕はきっと双六が終わるまで毒に蝕まれ続ける……でも、それでも……僕はこの選択肢を選ぶ……後は誠が終わりのコマまで進めるのを祈りを込めて……信じるしかない) 凄まじい不安に襲われ、手を震わせながらも僕は手に入れた解毒薬を泣きじゃくり続けている黒い顔に白の着物姿の子供へと手渡した。 この子供には、どう見ても目や鼻、それに口といったパーツが存在していないが、本来ならば目がある筈の場所から白い雫を溢れさせていたのとその凄まじい喚きようから必死に痛みと毒による苦しみに耐えているのが理解できた。 【謝謝……弟弟……(ありがとう、おにいちゃん)】 その、子供の嬉しそうな声は【金の成る木】に辿り着く選択肢よりも貴重なものに思えた。自然と笑みを浮かべる僕を嘲笑うかのように《殺人蜂》の持つ毒はじわりじわりと体を蝕んでゆゆく。 【つくづく、馬鹿な奴……。一つしかない解毒剤で子供を助けちまったら自分の命が危ねえのによ。その点、金はいいぜ……人間は裏切るけど金はそういう概念すらねえしな】 【う~ん……多分だけど幾ら何でも僕らの命までは奪う気はないと思うんだけどね。まあ、少なくとも体調が悪くなるのは間違いないね……お気の毒さま____まあ、優太くんが自分で選んだんだし仕方ないんじゃない?】 嘲笑うのは、なにも体中を駆け巡る毒だけじゃなかった。 元クラスメイトの声までもが、段々と動けなくなり麻痺してしまって地面に倒れていく僕を嘲笑う。 目がかすみ、ただでさえ白黒のモザイクみたいな世界が霞んでいく。 そして、徐々に意識さえもぼんやりと霞がかかるように失われつつあることに気がついた時には既に時遅く周りから聞こえてくる憎たらしい元クラスメイト達の声すら、か細いものとなっていく。 「……太、優太……しっかりしろ……っ____」 冷酷なことに、いとおしい人の慌てふためく声さえも段々と遠のいて聞こえなくなっていき、賽子が存在しない奇妙な双六に引きずり込まれたことはおろか自分の存在さえも記憶から消え去った後に意識を完全に手放してしまう。 もちろん、この時に何が起こっていたのか――更にはこの後に何が起ころうとしているかなんて【白黒が支配する世界】で《賽子が存在しない奇妙な双六》という敵が仕掛けたお遊びから脱落してしまった僕には知る由もないのだった。 *

ともだちにシェアしよう!