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白と黒しか色がない世界に恵みの雨が降る①

* 誠の表情は驚愕に満ちていた____。 少し前、優太が地面に力無く伏してしまい【賽子の存在しない奇妙な双六】から離脱してしまったことに対しての驚きではない。 時は少し遡るが、優太がこの奇妙な双六から離脱させられた後でまたしても犬飼が【選択肢のある場】まで誘導させられたのだ。 そして、先程と同様に犬飼は猿田に尋ねながら二つのうち一つの選択肢を忌々しそうに睨み付けた。明らかに、この奇妙な双六に飽き飽きしており金を独りじめしつつ早く脱出したいと願っているのが目に見えて分かった。 【 阵风将黄金吹走 。(突然吹いてきた風のせいで金が吹き飛んだ。金子粘在树上。| (そして木に引っかかった) 】 【 低于、 山像肯赞…… (下には 、剣山のような針山 ) 】 【 树上 去还是不去 ? ( 木に行くか行かないか ?) 先程と変わらず、少なくとも猿田よりかは学の足りない犬飼にはその選択肢が何を示そうとしているのか分からないようだった。慌てふためく彼の声が聞こえたため、誠がそう察したに過ぎないのだが大方その予想は当たっているのだろう。 しかしながら、英語から中国語に至るまて語学に長けていて秀才な猿田ならば分かりきっていると思ったのだ。 だからこそ、それから少ししてから猿田はその本性を隠してニコニコと笑みを浮かべながら単純で物事を深く考えていない欲望に忠実な犬飼をまんまと油断させ彼に【去还 (行く) 】という選択肢をごく自然と選ばせることに成功したのだ。 ずっと、猿田の奴はこの機会を待っていたに違いなかった。 この賽子のない奇妙な双六はどちらか一人のコマが【上がり】に到達すればいい。つまり、二人のうちどちらかが【上がり】まで到達すればいいというルールを逆手にとって、まんまと自分にとって邪魔だと感じていた犬飼を押し退けたに違いないのだ。 それは、犬飼が言葉が分からないのをいいことに剣山のように鋭い針山が真下に広がっている事実をひっそりと伏せたまま、選択肢通りに彼を樹上へとしがみつかせることに成功した。 ひら、ひらと枝に引っかかりながらなひく札を再び己の手に収めようとした犬飼が体を必死で捩らせたためバランスを崩して足を踏み外してしまうことさえ頭のいい猿田の予想通りだったのかもしれない。 体が石のように動かせなくなるのは、あくまで【選択肢のあるコマ】に止まった時以外の場面だということも、この秀才で尚且つずる賢い犬飼にとっては赤子の手を捻るくらいに容易く察せられたに違いないと誠は元クラスメイトだった犬飼が恐ろしくなった。 【個人的な復讐に邪魔者はいらない……足枷になるだけだからね……まあ、大好きでたまらないお金は手に掴めたんだ……それで良かったんじゃない?】 猿田の姿は見えないにも関わらず、まるで子供のように笑う声が聞こえてくるのが、ついさっき犬飼の断末魔を強制的に聞かされた今の誠にとっては逆に不気味で堪らない。 そして、こうも思った。 いや、ここに来てそう思わざるを得なかった。 この元クラスメイトの猿田という男は下手したら【スーツ姿の男 金野 力 】や 【同じく元クラスメイト の 知花 】よりも遥かに危険な思考を持ち尚且つそれを実践するような常軌を逸した奴なのではないかと____。

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