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恵みの雨が降った後にはナニが待ち構えているのか②
「さ……猿田……くん……っ___!?」
僕は急に転校してきたクラスメイトであり尚且つ親友だった知花によって、ミラージュに強引に連れて来られる前にダイイチキュウのもう一人の元クラスメイトであった猿田が倒れているのを目の当たりにして、とても動揺してしまう。
僕と彼は親友という間柄でも、ましてや友達という間柄でもなかった。
しかも、いつだったかは明確には思い出せないけれども学校外で起きた殺人事件の被害者だった。それも、白と黒の水墨画の世界に取り残された犬飼と共に____。
だからこそ、こんな場所で再会するとは夢にも思わなかったし目の前で彼が倒れていても、どのように反応すればいいのか正直にいうと戸惑いを覚えてしまったのだ。
今は平気とはいえ、青木がこの世界にいると分かった時も似たような感情を抱いたのを思い出す。
でも、その時は苦手だと思っていた青木に対して自分の本心をぶつけることにより無事に和解できた。
つまり、僕は目の前で倒れている猿田がかつて意地悪だった青木以上に――いや、それどころか同じように僕に対して負の感情を抱いていたであろう苛めっ子だった犬飼以上に苦手な存在なのだ。
「…………」
僕がおそるおそる声をかけても、猿田は横たわる体をぴくりとも動かさない。
しかし、いくら優等生であっても何を考えているのかという感情をいまいち読みとれない猿田のことが苦手だからとはいえ、このままこの部屋に放置するのも気が引ける。
それに彼を起こして僕が奇妙な双六から脱落していまっていた間に起こった事を詳しく聞いてみれば、いつの間にか行方知れずになっている
誠が今は何処にいるのか分かるかもしれないのだ。
「さ、猿田くん……っ___ねえ、起きてよ……猿田くんってば……」
今度は先程よりも大きめな声で、必死に元クラスメイトである彼の名を呼んでみる。
それでも、全く反応のない猿田の姿を見て【死に至る】という最悪の事態が頭を過ったものの微かに呼吸していると結論に至ったのは注意深く観察してみたため明白だ。
だいいち僕らを【白と黒しかない世界】へ飛ばしたのが知花であれスーツ姿の金野力という男であれ、ダイイチキュウで元から【死に至っている二人】の命を今更奪うという不平等かつ面白みのない事を企むなど有り得ないと思ったのだ。
僕らの敵であり互いに主従関係ともいえる二人の間に共通しているのは【ルールに反する不平等なことは許せない】ということだ。
それは、僕ら一行を弄び、彼らの頭の中でパズルのように組み立てられている全ての【遊戯】においても同じなのだろう。
だからこそ、決して彼らのやっていることを許した訳ではないとはいえ【賽子のない奇妙な双六】を利用して僕ら一行を弄んだのは【知花】や【スーツ姿の金野力】ではないと思ったのだ。
それに、このまま弱々しい様を晒している猿田を見捨てるのは《ルール違反=不平等》とみなされるのではないかという結論に至った僕はぐったりしている相手の体へと手を伸ばすと、さっきよりも少し強めに体を揺すりつつ起こそうと試みる。
すると____、
「夏季昆虫飞入火中――つまり、飛んで火に入る夏の虫。今の君に、ぴったりの言葉さ。もっとも、君はボクと違って学に長けている訳じゃないからピンとこないだろうけど……まあ、それでもあの馬鹿な犬飼くんよりは賢い方なのかもね。その怯えた表情すら、あの水墨画にいる彼は咄嗟に浮かべないだろうしね」
「な……っ____!?」
僕がおそるおそる横たわったままの猿田の体へ手を伸ばした後、何度目かの揺さぶりをかけてもいる最中にその異変は唐突に起こった。
気を失っているものだと思い込んでいた猿田の目が、突如カッと大きく見開きビクッと身を震わせる僕の怯える姿を捉えてじっと見据えてきたのだ。
あまりにも唐突なことたったため、まるでメデューサに見つめられて石と化してしまった人間の如く固まってしまう僕___。
そんな僕の怯えきる様を見て、猿田はニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながら人を小馬鹿にするような口調で吐き捨てると、そのままわざと時間をかけて身を起こしてから後退る僕を追い詰めるべくジリジリと此方へゆっくりと近付いてくるのだった。
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