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白霧の夢から覚めた後②
「あのさ、優太くん――その前にボクは君に言っておきたいことがあるんだ。多分、これは誠も……それに此処にはいないサンやミストだって思ってることだと思うし、誠は言いにくいだろうからボクの口から言うんだけど……優太くん、君は敵に付け入られやすい危うさがある」
「僕が敵に付け入られやすい危うさがある……って……?」
「うん。君はとても優しいんだけれど、逆にその優しさが仇となって、それが悪い方に向いていく……つまり、裏を返せば君が敵に危機感や警戒心を持たなすぎるせいで……君の身が危険に曝されるがことが多々あるってこと。誤解しないでね、それが悪いとかって訳じゃない。ただ、君は自分で自分の身を守る術を学ぶべきだと思うんだよ」
今までにないくらいに神妙な顔をして、僕の目を真っ直ぐに見つめながら必死に己の思いを伝えてくれる引田。
そして、そんな引田の思いに同調するかのように今まで小部屋から離れた場所にいたライムス(すっかり元の水色に戻っている)と、背後からピョンピョンと飛び跳ねるライムスから必死で逃げている白い子猫が姿を現した。
「ユ、ユウタさん……マコトさん____それにご主人サマも……っ……!!今、ワタシが追い掛けてる変な生き物があっちデ見つけてきた《おもしろいもの》ヲ……盗ったんデス。捕まえてくだサイ……確か、ダイイチキュウでは……ど、どろ……なんとかっていうって聞いたことがありマス!!」
元のままの姿でカエルのように跳ねながら追いかけるのは、じれったいと思ったのか明確には分からないけれど、人型の青年の姿に変化したライムスが此方へと必死で懇願したため僕は白い子猫が咥えている《おもしろいもの》に注目してみた。
しかし、僕だけでなく誠や引田が見てみても単なる剣にしか思えないらしく、何が変わっているのか分からない。
それは、もしも漫画であるならば頭の上に沢山の?マークを浮かべているであろう二人のリアクションを見てみても明らかだ。
誠は、しきりに小首を傾げつつ何度も剣の方に訝しげな目線を向けているし、僕らよりも付き合いの長い引田に至っては呆れ顔で「何をまたおかしなことを言ってるんだ」といわんばかりに剣ではなくライムスへ訝しげな顔を向けている。
「……まったく、何が……どろ――なんとかで、しかも面白いものだよ。お前が追いかけてるのは白い子猫で、しかも咥えてるのは単なる剣じゃないか……って、あっ…………」
ぼやくように、引田がライムスへ向けて呟いた後に意外そうな様子で此方へと目を向けてきた。
白い子猫が唐突に僕のいる方に近寄ってきて――しかも、咥えていた剣を僕の前に置いたからだ。
白い子猫は言葉を話せない____。
でも、その意外な行動と僕に向けてくる鋭い目付きから「これを受け取って強くなって」と言われているように感じた。
「…………」
だからこそ、僕は目の前に置かれた剣を拾い上げてそれをカバンの中にしまったのだ。
白い子猫は、とても気まぐれで僕が剣をしまう様子を見届けたかと思うとすぐにその場から去って行ってしまう。
「あの子猫も……優太くんに強くなって欲しいって思ってるのかもね。自分で自分の身を守るためにも、後で一緒に訓練しよう……ボクだって、これでもこの世界に来てから訓練したんだよ……他人に護身術を教えるのは初めてだけど。あと、誠にも優太くんを守る術を教えるためにも教えてあげる……ただし、タダじゃないから覚悟しといてよね!!」
「うん、ありがとう……引田。本当に感謝しても……しきれないよ」
と、一時ほんわかとしたムードが漂ったものの、それを破るのはライムスの焦りきった声だった。
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