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ライムスが言う《変な生き物》と《おかしなもの》は何?②
「…………」
すぐには気付けなかった____。
でも、【昼子像】の顔の部分だけに注目して注意深く観察している内に僕はある事実が妙に気にかかってしまう。それは、パッと見ただけでは分からないような細かいもので最初にチラッと見ただけでは分かり得ないであろうものだ。
そもそも、《昼子像》なるものには普通ならばある筈の手や足が存在せず、そのことも充分に異様な見た目としか言い様がないのだけれども、この際はそのことは無視しておくとしよう。
最初は《昼子像》なるものの目が完全に閉じきっているとばかり思っていた。でも、よくよく見れば《昼子像》は完全に目を閉じきっている訳ではなく注意深く見て見ないと気付かないくらいに細く目を開けている。いわゆる、《半眼》の状態だ。
ダイイチキュウで過ごしていた時にも《学習指導》の一環で学校から離れて仏像を見る機会は何度かあったものの、その時に見たものよりも細かなその事実に気付くのに大分時間が経ってしまった。
(ライムスが訴えかけている場所を……この昼子像なるものは見下ろしているように見えるけど、単なる偶然なのかな……)
ようやく、そう疑問に思った僕は《昼子像》とライムスが共に熱心に見つめている場所へと移動してみることにした。
しかし、やはりそこには何もないように見える。
それならば、と――単に見るだけでなくおそるおそる手を伸ばしてソコを触ってみることにした。
視覚でダメならば、もしかしたら触覚で何とか情報を得られないものかと頭で考えるよりも先に極自然と行動に移していたのだ。
そんな時だった____。
「い、痛……っ…………!?」
身を屈めつつ、【昼子像】とライムスが見つめ続けている場所を触ろうと手を伸ばしかけた僕の頭に真上から何か硬いものが落ちてきて、そのまま床へ落ちてしまったため僅かな痛みよりも驚きのせいで頭を撫でつつも、それを拾い上げる。
何故か、ダイイチキュウで暮らしていくには必要不可欠な《十円硬貨》がそこにあったからだ。
つまり、僕の頭にどこからか落ちてきて当たったのは《ダイイチキュウでしか通用しない十円硬貨》ということになる。
「な、何で……ダイイチキュウの十円玉が……こんな場所に……っ____」
誰ともなしに呟きながら、先程まで【昼子像】とライムスが見つめ続けていた場所へ再び目を向け直す。
すると、ついさっき――少なくとも頭に《ダイイチキュウの十円硬貨》が落ちてくる前までは何も見えなかった筈の場所に見覚えのある物がいつの間にか出現していたことに気付いたため、慌てて駆け寄り、それが何なのかしっかりと確認してみようと覗き込む。
僕の異変に気が付いたのか、扉から脱出するのを諦めてしまったためか引田と誠も僕の周りに集う。
「こ、これ……ずっと昔に流行った《こっくりさん》に似てない?十円玉と、この変な文字が何文字もびっしり書かれてる紙――やっぱり見れば見るほど《こっくりさん》にソックリだよ」
「うーん、十円玉……?文字がびっしり書かれてる紙?こっくりさんってそんなの使ってたっけ?オカルトには疎いしホラーとか苦手な方だからサッパリだよ。誠は覚えてる?」
「いや、済まないが俺も詳しくは覚えてない。ただ、優太の言うとおり――確かに十円玉を使うような儀式かなんかだったような気がするが……」
二人の煮え切らない態度に少しだけ呆れてしまった僕は先程と同様に頭で考えたりクドクドと説明するよりも二人の手を掴むと、そのまま紙の上に書かれた文字列の中央に十円玉を乗せる。その文字列には《阿 衣 乌 唉 哦……》以降ずらりと似たような文字が続いている。
今まで誰にも話せなかったものの、昔からずっとオカルト的な話に興味のあった僕はその文字列が何を示しているのか何となく察していた。
(これは五十音順……つまり、あいうえおって書かれてるってことは、やっぱりこれはダイイチキュウのこっくりさんだ――でも、いったい何のために……これがここにあるんだろう……)
そして、暫くの間考えて一つの閃きが頭を過った。
ずっと掴みっぱなしだった誠と引田の指を開かせてから人差し指を十円玉の上に置くように教えた後に自身の人差し指をソッと乗せる。
そして____、
「こっくりさん、こっくりさん……これから僕らはどこに行けばいいですか?」
少しして、十円玉が僕ら三人の意思とは関係なしに動き出す。誠も引田も、勝手に動き出してぐるぐると回る十円玉の予期せぬ反応に目が釘付けとなってしまっている。
と、唐突にめちゃくちゃにぐるぐると回っていた十円玉の動きがピタリと止まる。そして、紙の中央部分よりも更に上にある二本の斜めの縦線の箇所まですーっと動いていったかと思うと直後にそこで再びピタリと止まったのだ。
「え…………っ……!?」
僕の頭の中を何ともいえない不気味さをはらんだ違和感が支配する。
本来であるならば、そこには鳥居――つまりは二本の斜めの縦線だけではなく、二本の斜めの縦線と二本の横線の四本が描かれている筈だ。
ダイイチキュウの《こっくりさん》のようでありながら、ダイイチキュウの《こっくりさん》とは微妙に違うという恐怖に恐われ一刻でも早くこの儀式を終わらせたかったものの、十円玉からは指を離せなかった。
とはいえ、自由を奪われてるわけじゃないので、すぐにでも離すことは簡単だ。けれど、ここで勝手に指を離してしまうのは本来の《こっくりさん》ではタブーに値する。ましてや、こっちの世界の《こっくりさん》ゆえに今ここで勝手に指を離してしまうのは危険な行為だと脳が判断し身を委ねるしかなかった。
少しの間、二本の斜めの縦線の上で動きを静止していた十円玉だったか再び勝手に動き出すと今度はびっしりと並ぶ文字列の方まで進んでいく。
【 广 子 婚 宴 】
最後に、止まったのを皮切りに全く動かなくなった十円玉に釘付けとなりながら、今度はどうするべきなのか迷っていた僕らはどこからともなく現れた得たいの知れぬ赤黒いナニかにばくりと飲み込まれて意識を手放してしまうのだった。
そのナニかが、とても柔らかい感触だったのは覚えている。
ヌメヌメして気持ちが悪い____。
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