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水の中にあるのは素晴らしき白亜の宮殿、そこに僕らは招かれる①

* 「うわー、まさか……この竜乙殿の前にきみのようなお客さまが倒れているとは思わなかったよ……姫様に感謝した方がいいよ。きみだけじゃくって、えーと……えーと……あ、そうだ……お友達までこの宮殿に招いたんだよ……しかも、こんなに豪勢な宴を開くなんて滅多にないことなんだ――ルール違反はダメだよ?まあ、ボクはルールなんて忘れちゃうんだけどさ……」 今、完全に目が覚めて頭もハッキリとしている僕の前で話しているのは少し前まで迷子になっていたのを手助けしてくれていた黒い巨大な亀だと僕は最初に目にした時にそう思った。 何故、亀が人語を話しているのか___!? けれど、僕のそんな疑問に対する不安もその黒い亀が説明してくれた話を聞いてみて、すっかり吹き飛んでしまった。 その黒い亀いわく____、 ここは、水の中に存在する【世界】であり――それにも関わらず 全く息苦しくないのだ。 それどころか、逆に心地よくもあり妙に気分がウキウキしているように感じた。 今、僕の目の前にいる黒い亀が言うには、ここは【竜乙殿】と呼ばれている水中の世界に存在する建物らしい____。 目を覚まして真っ先に飛び込んできた光景は、少し時が進んだ今でもハッキリと覚えていて忘れてはいない。 一言で言い現すのであれば、僕の目に飛び込んできたのは【白亜の宮殿】であった。 壁も、三角形に尖っている屋根も全てが真っ白で、何ともいえない幻想的な風景の中に不気味さを僅かに感じたのは、まるでそこに聳え立つ宮殿自体が白骨で出来ているように見えてしまったせいだ。 しかし、そんな不気味さと幻想的な美しさを兼ね備えた白亜の建物とは裏腹に何処か近くから聞こえてきたのは楽しげな誰かの声と、何やら聞き覚えのある楽器の音____。 そのことに気付いた僕は、ゆっくりと身を起こすと、そのまま愉快げな音に誘われるようにしてフラフラと白亜の宮殿へと歩んでいったのだ。 ____が、扉に手をかけたとたんにハッと我にかえり、何の危機感も抱かずに中に入るのはやはり危険なのではないかと思い直した。 そんな最中に、今目の前にいる黒い亀と出会ったのだ。 突如として迷子状態の僕の前に姿を現した黒い亀は、どこか高い所から真っ逆さまに落ちてしまったようで甲羅を地につけつつジタバタともがき苦しんでいた。 僕の興味はとっくに愉快げに騒ぐ人達の声と美しい音色が聞こえてくる【白亜の宮殿】の内部へと引かれていたのだけれど、何故だか妙にその黒い亀の存在が気になってしまった僕はひょいっとその黒い亀を元の体勢へと戻した。 おそらく、その黒い亀が妙に気になってしまったのは先程朱い柱が永遠に続いている石畳の道で助けてくれたことに関係していると思ったため、その事について話してみた。 もちろん、それと同時に【狐の面を被った不気味な行列】から追われていた僕を助けてくれたことに対してとお礼も言った。 しかし、黒い亀は首を傾けるばかりで他には何の反応も示さない。 ただ、その代わりに黒い亀は僕について来いといわんばかりにゆっくりとした動作で【白亜の宮殿】へと進んでいく。 おそるおそる後を追っていって【白亜の宮殿】の内部へ一歩足を踏み入れた僕の目に、今度はまた別の光景が飛び込んできた。 宮殿内部では、宝石の如く彩りの魚が人語を話して僕を出迎えてくれたり、はたまた水中の中を優雅に泳ぎ回りつつ美しい歌声を披露してちたり、美味しそうな料理の載った盆を運んでいたりと――ダイイチキュウで昔読んだ絵本みたいな有り得ない光景が広がっていたのだ。 ふと、その中に会いたくて堪らない人物がいたため満面の笑みを浮かべながらそちらへと駆けて行った。 おそらく、僕よりも少し前にこの宮殿内部へと誘われていたであろう誠と引田がダイイチキュウのアニメか絵本に出てきそうな《人語を話している魚達》によって歓迎されていて、同じように困惑しながらも満更でもない様子で豪華な手料理に舌鼓を打っていたのだった。 そして、無事に再会できた事に対して喜び――黒い亀から「姫様が是非ともお主らに会いたいと申しているゆえ、ここに座るがよい。お主らにすこぶる興味を抱いたゆえ余興をすると仰せじゃ」と言われ____ ____今に至る。

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