638 / 713

水の中にあるのは素晴らしき白亜の宮殿、そこに僕らは招かれる③

その料理に対して激しい嫌悪感と違和感を同時に覚えて、尚且つ咄嗟に吐き出しそうになった僕の行動は間違ってはいない筈だ。 何せ形はどう見てもダイイチキュウにある【魚の刺身】だったのに、一口噛んだとたんに口内にじんわりと広がってきたのは甘くて瑞々しい【桃】の味だったのだ。 魚らしい生臭い味と香りが口内に広がると思っていたのに、フルーツの味が口内を襲ってくるという違和感はかなりのもので吐き出そうとしたのに誠や引田はその僕の行為を許さないといわんばかりに無理やり食べさせてきたのだ。 それも、二人して子供のように無邪気な笑みを浮かべながら____。 (こ、こんなの……おかしい……っ____明らかに普通じゃない……前に引田に警戒心がないって怒られた僕でも分かる――ここは敵の住み家だ……早く、早く……どうにかしなくちゃ……) 『誠、それに引田も……っ____ちょっとこっちにきて……』 僕はなるべく周りの魚達(黒い亀も含む)に悟られないように、物陰へと二人を連れて行く。幸いなことに、姿は鱗がびっしりとある魚そのものだが尾ひれが二つに分かれて人間のように二足歩行しているという奇妙なそれらは優雅に辺りを泳ぎ回っている。 それに楽器の音に合わせて賑やかに踊っていたり、鳥のように美しい歌声を披露していたり、中には(おそらく)酒を飲んでへべれけになっていたりと各々のペースで騒いでいるため僕の行動に気付いてはいなさそうだ。 「ねえ、優太くんどうしたの?ボクらも、あっちでお魚さん達と一緒に楽しもうよ……ねえ、誠くん?」 「そうだ、そうだ……引田の言う通りだ――俺も向こうに混じって……思いっきり遊びたいよ」 そう言って、僕の制止を振り切ると満面の笑みを浮かべながら引田は誠の手を引っ張ると、そのまま魚達の宴の場へと戻って行ってしまう。 僕は、慌てて様子のおかしい二人を追い掛けていく。 すると、白亜の宮殿の一室であろう今いる賑やかな部屋の中央部分に透明で大きな球体がいつの間にか存在していることに気付いた。 注意深く観察してみると、人間のように二足歩行をして黒い亀と同じように人語を話す魚達の口から出てくる泡がひとつに集まって、その透明な球体を形成しているのが明らかとなった。 そして、いつもと明らかに様子が違う引田は【不安】や【恐怖】といった負の感情を微塵もあらわにせず無邪気にニコニコしながら同じく笑顔を浮かべてワクワクしているのをあらわにしている誠の手を引っ張って、球体の中へと入ろうとしているのが見えたのだ。 透明な球体の前には、ダイイチキュウのアジによく似た容貌の二足歩行する魚が一匹いて、何やら引田へと言っている光景が見えたため、僕は急いで近付いてから彼の服の裾を出来る限りの力を込めてギュッと掴みつつ、何とかして再び此方側へと引き止めようとするのだった。

ともだちにシェアしよう!