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人間みたいな魚は水球の中に行きたいのなら通行に必要な証を渡せと言う①

「やっ……やだ、やだよ……離してよ!!優太くんの意地悪……っ……!!そんなにボクのこと嫌いなの!?誠くんとボクが仲良くしているからって……こんな酷いことする優太くんなんて……嫌い……っ!!」 「ち、違う……違うよ。僕は引田と誠のためを思って言ってるんだ。いいかい?ここに入ったらとても危ないことが起こるかもしれないんだ。だから、この水の玉の中にも入ったらいけないんだよ……僕の言ってること分かるよね?」 「危ないことなんて………起きないってば!!敵なんて、よく分からなくて怖いものも……ここにはいないもん!!優太くんはボクと誠くんから楽しみを奪うつもりなの……やっぱり、意地悪!!」 目にいっぱい涙を溜めながら、首を左右に振ってイヤイヤする引田を見て僕は慌てふためくばかりだった。 しかも、イヤイヤしている引田の隣にいる誠は無言のままとはいえ、それこそまるで敵を見ているような鋭い目付きで僕をじっと睨み付けているのだから尚更だ。 ____と、その直後に思いがけない出来事が起きた。 「わ……っ……!?」 今まで泣きじゃくっている引田を庇うようにして僕を睨み付けていた誠がある行動に出てきたのだ。その行為は、とても単純なものだけれど僕を困惑させるだけでなく何とかして引き止めていた彼らに都合のいい状態を作ってしまうことに繋がると悟った僕は慌てて体制を建て直してから再び水球の中へ入ろうとする誠の引田を追い掛けようとした。 誠が、勢いよく僕を突飛ばしたのだ。 僕の必死な願い――【誠と引田を迫りくる危機から守りたい】という思いをハッキリと拒絶するように____。 「ま、待って……待ってったら……誠、引田……っ……!!ダメだよ、ダメ!!そっちに行っちゃ……」 「あはは……鬼ごっこだよ____優太くん……鬼さん、こちら……手の鳴るほうへ!!優太くんの大好きな誠くんも、それにボクのことも捕まえられるかなぁ~……ね、誠くん!?」 「鬼ごっこ……鬼ごっこ……何だか、懐かしいね……懐かしい!!すっごく楽しい」 甲高い笑い声を辺りに響かせながら、誠と引田は必死で彼らを引き止めようとしている僕の様子なんてお構い無しに素早く水球へ向かって駆けて行く。 彼らの姿はダイイチキュウにいた頃と同じ――つまりは高校生の時のものと全く変わっていないというのに、それにしては妙にすばしっこい。 僕の必死な制止の声も聞かず、自由気ままに水球へと走っていく二人。明らかに理性よりも本能が勝っている。 それに、年齢に見合わない幼い言葉使いに妙なすばしっこさ。 無我夢中で二人を追い掛けながら、ここにきて、ようやく二人の身に何が起こっているのか理解できた。 今の誠と引田は、容姿以外まるっきり子供になってしまっているのだ。 それに、気付いて更に危機感を覚えてしまった僕は水球に入るギリギリの所で(おそらく)誠の服の裾を掴む。 しかし、結局は二人を水球の中へと入らせないという僕の願いは叶わなかった。 服の裾は掴んだものの、引っ張るところまではいかずに誠と引田は水球の中へと消えて行ってしまうのだった。

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