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みんなで一緒に遊ぼうよ――ここではゆっくり休めるよ②

確かに、この【世界】には怒りや憎しみ、悲しみなど存在しないため現実と違って過ごしやすい。 無意識のうちに、周りの人魚達に誘われるがままに全身マッサージをされていた僕はハッと我にかえった。 全く、気付いていなかったのだ____。 いつの間にか、この【珊瑚の大樹】の真下に来ていて――もしくは連れて来られていて、肌に擦り付けられるだけでゾクゾクするような魅惑的な快感を覚えてしまう泡でマッサージされていた。 すぐ近くから楽しそうに笑い合う誠と引田の声が聞こえてくる。 (そ……そうだ、早く……誠と引田を――見つけなくちゃ……っ____) それは分かりきっているのだけれど、すぐにまた楽な方へと気持ちが傾いていってしまう。 すっかり、この【世界】の異様ともいえる表面的には穏やかで心地よい空気に取り込まれつつあった。いつの間にか、朗らかな気持ちで無意識のうちに笑みを浮かべながら何も反論せず躊躇すらなく怪し気なマッサージを受け入れていた僕だったけれど不意にグイッとナニかから半ば強引に引き寄せられたことに気付く。 僕はそのことに疑問を感じたと同時に心の片隅でモヤモヤした気分を抱いた。 けれども、ナニかから強引に引っ張られたのがきっかけとなり完全に正気を取り戻したおかげで、ようやく本来の目的を思い出せた。 取り敢えず先ほどの幼い人魚の言っていた《タツノオトシゴ型の玩具をくれたという、あの子》の方を確認してみることにした。 そこには、相変わらず満面の笑みを浮かべながら周りの幼い人魚達や同じように幼児化した誠と共にはしゃぎながら遊びに明け暮れる引田の姿が見えた。 しかも、二人とも最初の頃よりも明らかに見た目に変化が出てきているのだ。 肌は光の加減によって虹色に見える鱗に覆われつつあり、耳もエルフほどとはいわなくても長く尖りつつある。 今のところは二人とも、足にはそれほど変化は見られないようだ。 ____とはいったものの、彼らの腕や顔といった部分同様に両足にもゆっくりとはいえ確実に鱗に覆われつつあるように見受けられる。 でも、もしかしたらこのまま周りにいる朗らかな人魚のように鱗に覆われるというだけでなく、足先以外の両足の部分がくっついてダイイチキュウにいた頃から付きまとっていた【人魚】のイメージ通りの姿と化して人間ではなくなってしまうかもしれない。 それに気付いた僕は、慌てて珊瑚の大樹の真下で現実を忘れてしまったかのように遊び暮れている二人の元に駆け寄っていく。 「誠、引田……っ____早く……そこから出てっ!!二人とも、このまま此処にいたら、人間じゃなくっちゃうよ……っ……それでも、いいの!?」 僕が必死で叫んでも、人間じゃなくなりつつある彼らに届かないのは――珊瑚の大樹の枝先から溢れてくるシャボン玉のような美しい球体の泡に全身が包まれ、バランスボールみたいにピョンピョンと飛び跳ねる遊びに夢中なせいだろうか____。 いや、きっと――それは違う。 彼らに僕の声が届かないというのは、単に物理的な問題が原因なだけではないと思う。 そうでなければ、引田の顔が一瞬悲しげに歪み、尚且つ口元が僅かに《助けて》と発しているように動いたりしない筈だ。 ずっと引田と誠と共に過ごしていた僕なら、引田の本心がわかる。正確には、少し前に《もっと慎重に行動しなよ》と引田から注意された今なら分かる。 彼らは――特に引田はずっと《不安》や《恐怖》、それに《怒り》といった負の感情を自らの心にしまいこんでいたのだ。それが、裏目となり、おそらくは未だに姿を現していないであろう《海中の中の宮殿に住まう敵》につけこまれてしまった。 今更、どうしようもないことを心中で悩み考えている最中に次なる問題に直面してしまう。 彼らの《元の世界に戻りたい》といった思いを取り戻すためには、いったいどうすればいいのか。何をするべきなのか。 またしても、単純なことではなく易々とは解決できない問題に直面してしまうのだ。 この壁を崩し、解決に導くのは一筋縄じゃいかなそうだと僕が思ってしまったのは、さっきまで幻想的かつ《怒り》や《悲しみ》が排除され喜び一色に満ち溢れていた【この狂った海中世界】に新たなる異変が起きようとしていることに気付いたからだった。

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