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お遊戯は終わりだ③
けれど、【珊瑚の大樹】の枝から伸びる蔓に捕らわれていた半人魚と化した誠や引田を引き離して宝箱の中へと閉じ込めた時のようにうまくはいかなかった。
サメのような下半身を持つ人魚は、手に槍を持っていて――それを構えると、迫ってくる剣(犬飼くん)を容赦なく横へと振り払ったからだ。
その際に、剣はヤツの肌をかすったけれども周りの人魚達と比べて特別なせいなのかは定かじゃない。
でも、結果的には小さな傷ひとつ作ることさえできずにヤツには今の僕の武器で貴重な剣で攻撃したところで無意味も同然だと瞬時に悟ってしまった。
サメのような下半身を持つ人魚が槍を振り払ってこちら側の攻撃を阻止したせいで、剣は壁面にぶつかってしまう。
それと同時に、壁面にへばりつき――さっき(というか今も)僕の体を蝕み続けている貝やらヒトデやらが剣の表面ににへばりつく。
『…………』
ついさっきまでは、うるさいくらいに響き渡っていた犬飼くんの声が聞こえなくなってしまう。剣が完全に壁面にのめり込み、それだけじゃなく貝の中からうにゅうにゅと伸びているトゲの生えた触手が彼を捕らえてしまっているせいだ。
そして、それを合図だといわんばかりに突如として今までは何もせず、まるでお遊戯みたいなこの光景を観る傍観者と化していただけだった筈の周りを取り囲む幼い見た目の人魚の群れが一斉に僕へ襲いかかる。
とはいえ、僕の体に致命傷を与ようとしてくる訳じゃなくハグするみたいに皆が皆抱き締めてくるのだ。
もちろん、がむしゃらに手足をばたつかせつつ抵抗はした____。
でも、うまくいかないのは――今もなお体にはりついたまま肌に吸いつき『仲間を救わなくちゃ』とか『この世界は負の感情がまったくない危険な世界』という僕自身の願望やダイイチキュウでは常識だった概念を徐々にだが確実に奪っている気味の悪い触手を持つ貝やらヒトデのせいか、もしくは根本的に人魚の群れが多すぎるせいだと思いつつも何も出来ないのがとても歯がゆい。
はっ____と気がついた時には、すぐ眼前には槍を持ち、満面の笑みを決して絶やさないサメのような下半身が立ちはだかっていた。
(こ、殺される……っ____)
咄嗟に目を瞑ってしまったものの、そんな僕の様などお構い無しだといわんばかりに三つに別れた槍の切っ先が迫ってきて____、
「ひ……っ____!?」
僕の左胸に、深々と突き刺さった。
不思議なことに痛みは全くといっていいほどない。でも、それが逆に僕には恐ろしく感じられた。
普通なら、泣き叫んでもおかしくないような状態なのに――と思うや否や、眼前にいるサメのような下半身を持つ人魚が高々と槍を空中へと真っ直ぐに振り上げる。
僕は慌てて左胸へと視線を落とす___。
そこには、本来ならあるべきはずのモノがなくなっていた。
信じがたいことだけれど、ぽっかりと穴があいてしまっている。でも、痛みや違和感なんて全くないのだから不気味でしょうがない。しかも、槍の鋭い切っ先に突き刺されて表面に小さいとはいえヒビが入りかけているにも関わらずビクビクと一定のリズムで脈打っているのが余計に不気味さを増している。
僕のあるべき筈のモノ――《心臓》はサメのような下半身を持つ人魚が持って天へと高々と掲げている槍の切っ先に突き刺さっている。とはいえ、元のグロテスクな様相じゃなくて、青白く光輝くハート形の貝となってあそこに掲げられているのだ。
このような危機を抱く状況にも関わらず、僕はまるで空に浮かぶ月を見ているみたいだ――と現実逃避にも似た感想を抱いてしまった。
そんな時だった____。
『おい……っ____こっちだ、こっち……気持ちわりぃサメみてえなヤツ____てめえは武器や力は持ってても……ニンゲンみてえな知能は持ってねえようだな……ニンゲンにはな死んだフリっつー卑怯なこともできるんだぜ!?まあ、てめえみてえにニンゲンの姿や魂まで失ったヤツには理解できねえか……ってことで、これでもくらいやがれ!!』
「い、犬飼くんっ……!?」
ついさっきまで、剣で尚且つトゲを持つ貝やら毒々しい色をしたヒトデが蠢きへばりついていた壁面にのめり込んでいた犬飼くんの声がすぐ側から聞こえたため、咄嗟にそちらへと目を向けてしまう。
その後に僕の目に飛び込んできたのは、槍を空中へと掲げて周りの人魚の群れから脚光を浴びるサメのような下半身を持つ人魚の背後から素早いスピードで迫りくる体は灰色で尻尾のみが黒という独特な毛色を持つ狼獣人の姿だった。
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