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終わる海中世界と意外な乱入者①
僕の意図を正確に汲み取ってくれた犬飼くんが、力が上手く出せきれないせいで、突拍子もない場所へと落ちてゆく《タツノオトシゴ型のおもちゃ》が地に着く前に何とか追い付くと、そのままそれを勢いよく蹴り上げた。
そのおかげで、スピードと勢いの増した《タツノオトシゴ型のおもちゃ》がサメ人魚へ襲いかかる。
しかも、犬飼くんは僕が意図した通り、ちゃんとそれの尖った部分――つまりは前方へ突き出した口の部分がサメ人魚の柔らかな目に当たるように蹴ってくれたのだ。
《タツノオトシゴ型のおもちゃ》の口の部分が、注射針みたいに尖っていてよかった。
でも、それを抜きにしても硬い物が柔らかい箇所――しかも目に当たるというのは、たとえ人魚じゃなくて人間でも痛みを感じるはず。
僕がそう思った直後、サメ人魚の顔が醜く歪み――尚且つ、元の人間の姿へと戻っていく。
どうやら、彼は完全にこの狂った海中世界に取り込まれた訳ではないらしく、ダイイチキュウにいた頃はどこかで働いていたサラリーマンらしき元の姿に戻ってから呆然としつつ涙をポロポロとこぼしながら負傷した目を抑えている。
「な____っ……何だっていうんだ……会議中に意識を失ったかと思えば……こんな訳の分からないことが起きて……そうか、君……これは夢なんだよな!?」
「え……っと……その____」
急に、問いかけられてわざとじゃないとはいえ彼と目を負傷させてしまった気まずさと、その問いかけに対して何と答えればいいのか分からずに慌てふためいてしまう。
すると、
「おいっ……そんなどうでもいい話は後にしろ!!とにかく、あの不快な音が鳴り止む前にお前の物を取り返しやがれ」
「き……君、胸に大きな穴が空いてるじゃないか……っ____!!?」
そうだ、こんなことをしている場合じゃない。
僕は二人の怒鳴り声と慌てふためきながら発した言葉を聞いて、ハッと我に返る。
そして、最後の銅鑼の音がなる前に向かうべき場所へと移動する。
槍の先端に突き刺さったままドクドクと律動を繰り返している【貝殻の心臓】を掴む。かなりの痛みがあるのではないか――と覚悟しつつ内心では怯えていたけれど、そんな心配は全くの無用だった。
痛みなどなく、むしろそれを手にした途端に途徹もない《喜び》と《安堵感》に包まれる。
そんな最中、最後の銅鑼の音が辺りに響き渡った。
更なる異変が、辺り一面に起こったのは――その直後のことだ。
バサッ____
ヒュウッ____
急に、どこかから聞こえてきた音と共に僕と犬飼くん、それにサメ人魚だった人間――以外の周りに存在する物が全て真珠色の砂に包まれていき更には風化して崩れ落ちていく。
「あら、まあ……めんこい童子ですこと。あなた方が、この安らぎの海中世界を変えてしまったのですね……全く、困ったお客様たちだこと……。今日は昼子様のご婚礼の儀があるというのに――これ以上騒ぎを起こしたら、主様に叱責されてしまうわ」
周りの物が全て風化し、単なる白い空間と化してしまった場所に現れたのは、大きな紫色の扇子で口元を隠しつつ目だけで僕らを厳しく睨み付けてくる一人の女性だった。
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