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極上の楽園と試練と仲間の行方②

「ね、ねえ……きみ――どうして、こんな泉を……覗き込んでるの?」 あまりにも、布がほつれてボロボロの格好をしているその子供は近寄ってくる自分に対して興味を示していないため、何ともいえぬ違和感と不気味さを抱いた僕はおそるおそる尋ねてみた。 すると____、 「だって……この【我モ想ウ泉】の中に……大事な金桃を落としちゃったんだから仕方ないやろ。おらの母ちゃんは、あれがねえと長生きできん……銭もねえから碌に薬も買えん。だから、おら――伝説の神馬が住まうこの泉に来て、ほとりに生えとる金桃を取りにきたんだ」 「それを取ったら、お母さんは助かるの?それに……神馬って……何?」 「おらも、よくは知らね。たんだ、村の者らは金桃を食べるとたちまち幸せになって活気を取り戻した。だから、おらは……母ちゃんのためにここまで来た。だけんど、金桃がこんなに重いもんとは知らんかったのや。もう、影すら見えん……残りは、あれしかねえのに……他んのは、全部村の奴らが取っちまった」 その子供の哀れな言葉に、僕も釣られて泉のほとりにしゃがみ込みエメラルド色に煌めく水面を覗き込んでみた。 「え……っ____!?」 その直後に思わず変な声を出してまったのは、白波をたたせつつ揺らめいている水面に、一瞬だけ双子の想太の顔が映ったように見えてしまったからだ。 けれど、その不可解な現象もすぐに消え去ってしまった。 そのため、僕はそれほど気にすることなく再び泉の中を観察し直した。確かに、目の前にいる子供が言うように金桃とやらの影すら見えない。それどころか、魚とかの生物が住みかとしているのかすら 分かりそうになかった。 「…………」 僕は迷いに、迷った。 ここで、母想いの哀れな子供を助けるべきか――。 それとも、想太を含む仲間達の行方探しを再会するべきかだ――。 でも、ここで自分の叶えたい願いを優先させて――このまま離れ、誰かに救いを求めている哀れな母子を見捨てるのも如何なものだろうか。 少なくとも、目の前にいる子供が嘘をついているようには見えない。 そんなこんなで、久しぶりに悩みに悩んでいた最中にそれは起きた。 急に、すっくと立ち上がった子供が両手をぱん、ぱんと何度も叩いたのだ。 合計で、七回叩いた後に今まではどんなに話しかけても碌な反応を示していなかった子供がここにきて初めて僕の方へ振り向いてくれた。 にっこりと満面の笑みを浮かべながら、どことなくうっとりとした様子で再びエメラルド色の泉の水面を覗き込む。 「おら、大事なこと――忘れてただよ。こうすりゃ、泉におわす神馬が姿を現すって村人らも話してた……だから、きっと――今に……おらの願いを叶えてくれる」 再び、水面へ釘付けとなった子供。 それから少しして、突如としてポコポコとあぶくがたったかと思うと、先ほどの子供が言った通り僕らの目の前にまるで神のように神々しく美しい一頭の白馬がエメラルド色の水中から姿を現すのだった。 美しい白い毛並みの白馬の登頂部には、黄金に光り輝く一本の角がある。そして、僕は今直面している光景を――かつて、どこかで見たことがあるような気がして何か引っかかるものを感じていた。 しかし、側にいる子供が何の疑問も持たないまま躊躇なく黄金色の一本角を持つ白馬に跨がったため、仕方なしに僕も同じように馬の背に跨がった。 かつての故郷、ダイイチキュウでも今いるこのミラージュでも馬に跨がったことなどない僕は身軽な子供とは真逆でそれをするのにかなり時間がかかってしまった。 こうして、僕は哀れで母想いの子供と共に黄金の一本角を持つ白馬によってエメラルド色の泉の底へと連れて行かれるのだった。

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