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神馬がおわす場所は【理想郷の泉の底に沈む楽園】なり①
*
「お客様____それでは、これから地下泉一階へと下ります。どうか、お楽しみ下さいませ」
と、ボンヤリしていた僕の耳に届いてきたのは清らかな女性の声だ。
いわゆる理想郷のような幻想的な光景が広がる場所から、ふと気付いた時には今いる所へとたどり着いていた僕と哀れなる母想いな子供は辺り一面が闇に包まれている謎の場所に倒れていたのだ。
どうすればよいか分からないながらも、右往左往していた時に目の前にいる不思議な雰囲気を醸し出している女性と出会い、言われるがままに彼女の後に着いてきて――今に至る。
僕や誠らといったダイイチキュウから来た人間の女性ではなく、明らかに異なる種族なのだけれども、かといってミスト達のようなエルフではなく、ましてやライムスのようなスライムとも違うようだ。
そもそも、膨らんでいる胸元を見て女性と勝手に判断しているだけで《女性》と判断しているだけで、もしかしたら性別などないのかもしれない。
よくよく声を聞いてみると《女性》と《男性》の声が入り混じったかのような、不思議な声色をしているからだ。
それに、僕らと違って衣服を身に纏っていないというのも気にかかる。全裸状態なため普通であれば気にかかって当然なのだけれど、それとは別にもっと彼女に対して釘付けとなってしまうのは全身から神秘的な青白い魅惑的な光を放っているせいだろう。
「あ、あの……あなたは、僕らを____どこに連れて行くつもり……ですか?」
「そうですね、一言で申し上げるのであれば……楽園とでもいいましょうか。お客様方が欲しいものを手に入れることが出来る楽園でございます」
【楽園】――そう、確かに不思議な容貌の彼女が言う通り、最初に出会った時――子供の頃に夢見た楽園のような景色が僕の目に飛び込んできたのだ。
少し、話を戻すけれど《彼女》が現れる前に、僕らは辺り一面が闇に包まれる不気味な場所をさ迷い続けていた。しかも、すぐ側からは小さい子どもが発しているかのような不気味な笑い声が聞こえてくる。
一面が闇の中で、眼前にボンヤリと浮かび上がっていたのは【青白い光に包まれるメリーゴーランド】だ。
それは、あまりにも唐突な変化だった。
そのせいで、思わず足を止めてしまう。
それは、ダイイチキュウにて暮らしていた時に孤児院の職員に連れられたデパートの屋上にあった物の瓜二つで、僕がどんなに職員に「乗りたい!!」とせがんでもその望みは一度も叶えられなかった。
隣で、想太が僕の我が儘に対して呆れた顔をしていたけれど、子供の頃の僕はどうしてもそれに乗りたかったのだ。
そんな過去と現在に揺れ動く僕の心を見透かしたかのように、闇の中に浮かぶ赤や青、それに白で彩られた複数のカラフルなメリーゴーランドは軽快なラッパ音を響かせつつ、ぐるりぐるりとまるで目眩のように回り始めたのだった。
その内の一体に、目の前にいる《彼女》は乗っていたのだ。
その後、《彼女》を見つけるまでは暗闇だった場所にある変化が起きた。
大小様々なキノコが生えている森の光景へといつの間にか変わっていて、《彼女》の周りを飛び回る、まるで虫みたいに小さい妖精に誘われながら周囲に生えているものの中でも一際大きく大樹のようなキノコの前まで連れて来られたのだった。
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