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おもちゃの列車は走るよ、どこまでも②

何の気なしに、僕はカタコトと音を立てながら走り続けるプラレールの方へと足を運んでいく。 何故、そうしたのかは僕もよく分からなかった。 でも、とにかくプラレールの方へと引き寄せられた僕は真上からそれを覗き込むと、あることに気付いた。 通常、プラレールという玩具は大抵であればプラスチック製のレールの上を列車が走り続けているだけで、それ以外の周りの風景となるパーツはないのが一般的だ。 けれど、今――僕が目の当たりにしているプラレール型の玩具は違う。 プラスチック製の青いレールの上を列車が走り続けるのは同じだけれど、その周りには僕が見慣れた景色が広がっているパノラマ模型となっているのだ。 そもそも青いレールの上を走る玩具の列車にも見覚えがあることに気付いた途端に、ハッと息を飲んで、その模型に釘付けとなってしまった。 《しらなみ》____。 かつて、ダイイチキュウに存在していた筈のその寝台列車は白い車体に波のようにうねうねした曲線を描く白いペイントが施されていた【廃車】であり、僕らがミラージュへと転移する時には既に廃線が決定していた。 だから、実際には乗ったことはなかったけれど僕の中で【デパートの屋上にあるメリーゴーランド】と同様に、『いつか乗ってみたい』と夢見ていた存在でもあった。 今は存在しない筈の《しらなみ》は、青いレールの上をどこまでも走っていく。 このまま永遠に止まらないのだろうか――と何故か不安を抱きながら、僕はまるで何かに憑かれたかのようにマジマジと【おもちゃの列車】を熱心に覗き込んでいた。 しかし、 「あ……っ____!!?」 ふと、隣で同じように【おもちゃの列車】を見続けていた筈の母思いの少年が大きな声をあげたため、思わずそれから目を離して彼の方へと目線を向けてしまった。 彼の目は、既に【おもちゃの列車】になんか興味ないと言わんばかりに下から上の方へと向けられていた。 天井から吊り下げられた、瞬きする度に内容や写真が変わるという不思議な《新聞記事》は風になびく風鈴のようにゆらゆらと揺らめいている。 強いていうなら、ちりんちりんという涼しげな音がないのが違う点だろう。 「行か……なきゃ____向こう……に____」 ふいに、先程までは無言で【不思議な新聞記事】に夢中になっていた母思いの少年がポツリと呟いた。 蚊が鳴くかのような、小さく儚げな声。 しかし、確かに僕の耳にはハッキリと届いていて――しかも、その言葉を聞いた途端に何ともいいようのない不安を感じてしまう。 その不安は的中したようで、ついさっき彼が夢中になっていた【不思議な新聞記事】の内容を確かめようと再び目線を上へと戻した。 そして、意図的に瞬きしてみたのだけれどこの場所に連れて来られたばかりの時と違って、瞬きをしたからといって今、僕が目の当たりにしている新聞記事の内容や写真が変わることはなく、あるものに固定されてしまっていることに気付くと更に不安に押し潰されそうになってしまった。 《無念、ゴールドアロー ____ 桔梗杯に出場ならず!!》 《ゴールドアロー出場不可!!その原因は若き騎手 、白波(しらなみ) 希星( きせい )の怪我》 (これ……ダイイチキュウのテレビで見たことがある――確か、かつては競馬のレースに参加してた廃馬の記事だ……凄い馬だったのに扱える騎手がいないから破棄されたんだっけ____こんなこと、すっかり忘れてた……) その新聞記事を見て、僕はあることに気付いてしまい再び母思いの少年の方へと目線を向けるのだった。 しかし、その時には既に母思いの少年は――そこにはいない。 とはいうものの、いわゆる神隠しと呼ばれている現象のように忽然と姿を消した訳じゃない。 母思いの少年だった《白波 希星》は、いつの間にか大人の姿へと変化して【おもちゃの列車】と【不思議な新聞記事】を交互に見つめ続けているのだ。

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