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おもちゃの列車は走り続けるよ、冬の町を②

デフォルメ化した誠達の姿を目にした途端、《おもちゃの列車の外側》にいる此方までもが自身の意思では体を動かせないぬいぐるみと化してしまったかのように固まりつつ目では《おもちゃの列車の内部》の様子を観察する。 それというのも、唐突に――まるで虫眼鏡のレンズを覗き込んだ時のように、《おもちゃの列車内》の様子がアップされて目に飛び込んできたせいだ。 そして、《おもちゃの列車内》の席に座っている幼い頃の想太の姿をした存在は、俯きながら文字を追うのを止めて、ぱたんと本を閉じた。 * 「____えっ…………!?」 僕はハッと我にかえると、目を疑ってしまった。 それというのも、いつの間にか――《おもちゃの列車》の内部に入り込んでしまっていたからだ。 もちろん、僕には列車内に入って椅子に座ったという記憶などない。 目の前には気持ち悪いくらいに満面の笑みを浮かべて、先程閉じた本を座席のシートへと置いた《想太》がいる。 それに、デフォルメ化して可愛いらしく変身している仲間(誠にミスト、それに引田にそっくりだ)のぬいぐるみ達が《想太》の周りを取り囲むようにして座っているのだ。 『ここに、ずっといればいいよ……優太。苦しみも、悲しみもないこの電車の中にいれば――どんな願いも叶う。世界の境目を越えて、ここにいる彼らともずっと仲良くいられるんだよ。ほら、見て――車窓の外にはこんなに素敵な光景が広がっている……優太も見てみなよ』 久しぶりに再会出来た《想太》の提案を無下にすることが出来ない僕は、とりあえず彼の言う通りに、走行中のためにどんどんと流れていく車窓から見える外の光景を眺めてみることにした。 車窓には、最初――暗闇と自身の不安そうな顔しか移らなかった。けれども、甲高い汽笛を鳴らしながら走る列車が進んでいく度に、まるでパラパラマンガのコマみたいに僕の表情が変わっていくことに気が付く。 そして、最終的に車窓に映る僕の顔が満足そうな笑みを浮かべて、かつてダイイチキュウで共に過ごしていた時の《子供の頃の想太》を抱きしめている光景が目に焼きついた直後には今度は全く別の風景が車窓の外に広がっていた。 雪降るダイイチキュウ【唏京都】の風景だ。 それは、朝の風景____。 僕と想太――そして誠と引田が四人揃って雪降る【唏京都】の学校へと続いていく道を賑やかに談笑しながら歩く光景が否が応でも目に焼き付く。 ポッポーと一際甲高い汽笛が鳴り終わった途端に、その不思議な朝の風景はグニャリと歪み煙のように消えてしまい、また新たな光景が僕の目に焼き付く。

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