堪えがたい寒さの中、どうにか動かすことのできる瞼を、必死で開けてみる。 すると、僕と白波希星をこれまで案内してきた青白い光に包まれた彼女が体を左右に振るわせながら真上を軽やかに舞っているのが見える。子供の頃にフィクションの世界の中で憧れた、妖精のように。 すると、その直後から幻想的な彼女の体から何か粉状のものがはらり、はらりと舞い落ちて――横たわり弱りきっている僕の体の上に降りかかる。 その様は、まるでダイイチキュウにいた頃にテレビや雑誌の中でしか見ることの叶わなかった風に吹かれる真っ白な粉雪のようで、あまりにも幻想的な光景に心奪われた僕は彼女の体からハラハラと零れ落ちる粉状のものが降りかかってきても、さほど違和感を抱くことなく何もかもを投げ出して、むしろ若干の幸福感を覚えつつ抗いがたい寒さと眠りの世界へと堕ちていきそうになってしまっていた。 それでも、何とか僕は渾身の力を振り絞り――寒さの中で段々と凍えつつあり、かじかむせいで上手く自由のきかない手をある場所へと必死で動かそうと試みる。 しかし、その無我夢中の行動をするべく伸ばした僕の右腕は頭の中で意図している考えを成し遂げる直前で力尽きてしまい、冷たい霜が張っている車中の床へと、ぱたりと落ちてしまった。 完全に腕から体全体が固まってしまい、自分の意思では動かせなくなってしまったことを、否が応でも悟った僕。 しかも、最悪なのはそれだけじゃない。 もはや、ついさっきまでこのピンチといわざる終えない状況を僅かにでも考えられていた頭の中は、吹きすさぶ雪嵐のように真っ白くなっていて碌に考え事すら出来なくなっていた。 それでも、眠ってはダメだと心の中で何度も言い聞かす。けれど、やはり瞼はどんどん下がっていき、やがて目が閉じてしまう。 『おめでとう、これで……軟弱な精神の持ち主で周りに頼ることしか出来ない役たたずの君でも――喜びしか感じることのない素晴らしい世界へと行ける資格ができた。それすなわち、君は此方側の存在になるということ……むろん君も、君の仲間達も＿＿＿＿』 薄れゆく視界と意識の中で、まるで子守唄を歌うかのような清らかな猿田の声がすぐ側から聞こえてくる。既に、白波希星は眠りについているらしく、すぅ、すぅと心地よさそうな寝息も猿田の愉快げな声に混じって聞こえてくる。 (もう……何も＿＿＿＿考えたくない) ふっと、思った途端に先程から感じていたものとは比べ物にならないくらい遥かに強い眠気が襲いかかってきて、それに拍車をかけて寒さと心地よさが全身を駆け巡ると遂にそのまま瞼を閉じてしまうのだった。