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久々の再会は思いがけない形で訪れる①
*
青々と茂った数十本はあろうかという樹木____。
真上から地上に存在する全てを焼きつけんばかりにギラギラと照りつけてくる太陽の光____。
心地よく吹きつける風に混じって漂ってくる土の香り____。
はちきれんばかりに響き渡る男女の声____。
ゆっくりと瞼を開けた僕につきつけられたのは、そんな不思議な光景だった。先程までは強烈な眠気と寒さとが支配していた列車の中にいた筈なのに、何故こんな対照的ともいえる場所に呆然と突っ立っているのか分からなかったからだ。
とはいえ、段々と頭がハッキリしていく内に此処がどこなのか理解した。
今、僕が立っているこの場所は――かつて《ダイイチキュウ・唏京都》にあった学校のグラウンド場だ。
少し離れた場所で、体操服を身につけたクラスメイト達が運動に励んでいる。それぞれが、走っていたり、サッカーをしていたり、キャッチボールをしていたりと様々だ。
(どうして、こんな場所に……。さっきまで列車の中にいた筈なのに……っ____)
寒さに支配されていた列車の中とは、まるで正反対の状況に意図せず直面してしまい半ばパニックに陥ってしまった僕はひたすらその場に立ち尽くす。
とはいえ、体の自由が効かないわけではないらしく、何ともいえない不安に苛まれながらも、ゆっくりと一歩を踏み出した直後のことだ。
『おい、優太……お前も、こっちに来いよ!!』
『優太くん、一緒にキャッチボールしよう!!』
右側から聞こえてくる、懐かしい仲間の声。
慌ててそっちを向くと、白いボールを持った三人の男子が笑みを浮かべながら立っているのが見える。
それが誰であるのかは、目を向けた瞬間に理解した。
はにかんだ笑みを浮かべ、どこか照れくさそうにしている想太____。
満面の笑みを浮かべ、僕に向かってぶんぶんと手を振っている誠____。
白いボールを持ったまま、三人のうち独りだけ笑みを浮かべずに真顔で目だけをこちらへ向けている引田____。
懐かしい仲間達が誘いかけているにも関わらず、僕は胸騒ぎを感じた。そのため、再び踏み出しかけていた足を引っ込めてその場に立ち止まる。
すると、急に背後から気配を感じて今度はそちらへと振り向いた。
『何をしている、今は私の授業中だぞ。早く、あいつらの元へ行きなさい』
その厳しい口調にも、懐かしさを覚える。
でも、僕らよりも前にダイイチキュウの旧校舎にある美術室の鏡からミラージュに飛ばされてきた《坂本先生》の声じゃない。かといって、彼と同じような境遇を辿った元クラスメイトの《青木》のものでもない。
背後から声をかけてきた彼の顔は、逆光のせいで真っ暗になって見えはしない。
けれども、この鬼のように低い声は…………
モザイクがかかったみたいに、よく顔が見えない彼は、かつて僕らの体育を受け持つ先生だった____
…………
…………のものだ。
顔の見えない彼のことをようやく思い出した直後、唐突にとてつもない地響きに襲われてしまい、バランスを崩した僕は地面に倒れてしまう。
揺れは少しして収まったものの、驚きのあまりキョロキョロと辺りを見回すが、バランスを崩して倒れてしまうくらには激しいものだったにも関わらず、辺りの光景には異変が見当たらない。物が倒れるわけでもなく、樹木から葉っぱさえも落ちていない。
誠や、引田――それに想太だって相も変わらず笑みを浮かべながら此方へ来るように誘いかけてくる。
倒れて地に伏してしまった僕の背後から、《____》の容赦のない叱責の言葉が相も変わらず飛んでくる。
だが、多少なりとも異変はあった。
さっき、笑みを浮かべずに真顔で白いボールを持っていた引田の顔が安堵するかのような穏やかな笑みを浮かべていること____。そして、手に持っていた筈のボールが彼の手から離れて僕から僅かに離れている所までコロコロと転がってきたことだ。
身を起こし、手を伸ばしてそれを取ろうと試みるが届かない。
歩いていかないと、このボールは取れないと判断した僕はおそるおそる一歩を踏み出した。すると、そこでようやく地に白線が引いてあることに気付いた。
いわゆる、ラインパウダーというもので引いてあるのだ。
ここを踏み越えれば、転がってきた白いボールに届く。
しかしながら、ラインを踏み越えた途端に、またしてもある異変が起きようとは、この時の僕には知る由もなかったのだった。
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